第2話
第三章:命を賭した駆け引き
「食べる…?」遥の顔から血の気が引く。
ヤホホは手を叩いて哄笑した。「そうじゃ、そうじゃ!人間を食らうのは一年ぶりゆえ、もう待ちきれん!」
佑真は必死に頭を巡らせた。このままでは二人とも餌食になる。
「待ってください!僕たちを食べるなら、せめて順番を決めませんか?」
ヤホホの目が輝いた。「ほう、面白い提案じゃな。続けてみよ」
「まず僕から食べてください。遥は…遥は後で」
遥は驚き、佑真を見つめた。佑真の胸には、大学のアイドルだった遥に告白し、ようやく付き合えた三年前の記憶が蘇る。
最近は倦怠期でも、今日だって紅葉狩りに付き合ってくれた。
自分が先に食べられれば、その間に遥は逃げられるかもしれない。
わずかな可能性に賭けようと、彼は決意した。
しかし、ヤホホは首を振った。「いやいや、それは逆じゃな。
わしの経験では、男を三とすると女は十の美味しさじゃ。女の方が脂肪が乗っておってな、それはもう絶品なのじゃ」
遥の体が震える。
ヤホホはさらに続けた。「計画はこうじゃ。まず女の方を一日かけてゆっくり半分食べる。
その後、凍らせて保存。数日後にまた楽しむ。男の方は…まあ、前菜程度じゃな」
佑真は咄嗟に叫んだ。「待ってください!それなら、僕たちに最後の願いを聞いてもらえませんか?」
「願い?」
「僕たちは恋人同士なんです。最後に…最後に二人だけの時間をもらえませんか?」
ヤホホは興味深そうに眉を上げた。「ほう、人間の愛情というやつか。面白い。では、一時間だけやろう。その後は…」
そう言い残し、ヤホホは洞窟の奥へと姿を消した。
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第四章:それぞれの真実と覚悟
ヤホホが去った後、二人は小声で話し合った。
「佑真…私、怖い」遥が震える声で言った。
「大丈夫だ。必ず何とかする」
佑真の心は複雑だった。本当は遥だけでも逃がしたい。しかし、どうすれば良いのか。
一方、遥もまた考えていた。やはりここで死ぬのは嫌だ。佑真には悪いが、佑真と別れて、
また大学のアイドルに相応しい男と付き合いたい。
しかし、時間は刻一刻と過ぎていく。やがて、遠くからヤホホの笑い声が聞こえてきた。
「もうすぐ一時間じゃな。さあ、どちらから始めようか?」
この時、遥は天啓に打たれた。「この方法なら助かるかもしれない」
佑真は、ヤホホに懇願を始めた。森の食物連鎖を例に出し、男性の方が美味いと熱弁し、
さらには男性の精巣が珍味だと、訳の分からないことを口走る。
そして最後に「食べるのを1人にしてください」と。
ヤホホは「1人か…」と呟き、1人だけ食べる案も満更ではない様子だった。
しかし遥はヤホホに言った。「女性は美味しいんでしょ?私を食べなさいよ。そして、この男は助けてやって」
ヤホホは涎を垂らしながら遥に迫る。
佑真は慌ててヤホホに言った。「これは違うんです!彼女は分かってないんです。
そう!寒さで寝ぼけているんです。さっきの遥の言葉は取り消しです!」
遥は佑真の目を見て言った。「佑真、今までありがとう。私が先に食べられるから、
そんな私を見ないで。佑真には、綺麗な私をずっと覚えていて欲しいの」
遥はさっとヤホホを促し、洞窟の奥へと進んでいった。
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