山の精と戯れ

奈良まさや

第1話

山の精と戯れ


第一章:秋の迷い、初雪の予兆


秋のやわらかな日差しが降り注ぐ午後、佑真と遥は紅葉を求めて山道を歩いていた。付き合い始めて三年。互いへの気遣いはあっても、会話はどこか途切れがちで、二人の間には倦怠期の影が色濃く差していた。


「久しぶりに自然の中を歩くのも、いいものだね」と、遥が微笑む。


「ああ、たまには悪くないな」と佑真も応じた。


その言葉に偽りはなかったが、心の距離は依然として埋まらない。そんな二人の上空を、突如として冬の気配が覆い始めた。予報になかった初雪が、わずか一時間で山々を白く染め上げ、慣れない雪道はすぐに二人の行く手を阻んだ。下山ルートを見失い、焦りが募る中、夕暮れ迫る山中で偶然見つけた小さな洞窟に、二人は身を寄せた。吹き荒れる冷たい風に震えながら、互いの体温を分け合うように抱きしめ合い、長く凍える夜を過ごした。


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第二章:山の神との対峙


夜半、洞窟の奥から、まるで生きているかのように風が渦を巻いた。


「…誰かいるの?」遥が震える声で問いかけると、その問いに応えるように、巨大な影が揺らめいた。


岩壁の向こうから現れたのは、身の丈三メートルを超える、白い毛に覆われた異形の存在だった。その目は光を宿し、口元には年老いたユーモアが漂っている。


「よくぞここまで来たな。わしは山の神・ヤホホと申す」


佑真は反射的に遥をかばい、立ち上がった。


「助けてくださるんですか?」


ヤホホは胡坐をかくように岩の上に腰を下ろすと、愉快そうに答えた。「いや、その逆で、お前たちを食べようと考えているのだ」


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