第二話「日常の終わり」

突然あの時のお偉いさんに再び呼び出され、一人どこを切り取ってもお金がかかっていることがわかる部屋に通される。部屋に入って目の前に座っているのは知らない人。だけれど、胸についているバッジからかなり高い位の人だとわかった。ソファに座ると今までに感じたことがないほどに柔らかくて、生地も肌触りがいい。給仕さんが私の目の前にこれまた高そうな茶器に淹れられた紅茶を置く。有難く一口いただき、目の前の知らない男を見ると、ようやく口を開いた。


「素直に呼び出しに応じてくれて感謝するよ、グレイ・ノクスフェルドさん。単刀直入に聞くが、女ヒーローとして活動してみる気はないかね」


やはり、それか。内心そう思う。


「ええ、私は目立ったりすることが苦手なんですよ。ただでさえ今も、ヒーローレオン・フィズの幼馴染としていろんな感情を持たれているのに、さらにヒーローにまでなってしまったらどうなると思いますか?それに、とても面倒くさがりでして、そういうことは性に合わないんですよね」


にこりと笑顔を貼り付けて答える。ヒーローになる気はない。


「そうか。ならば、仕方ない。もう一度問うが、本当に、ヒーローとして、活動する気はないんだね?」


「ええ。ありません」


「本当に残念だよ。君は優秀なのに。連れていけ」


目の前の男がそういう。これはまずいかもしれない。


「な、何を!」


男の両サイドに立っていた護衛が私を拘束する。重力を操ろうとするが、異能力がうまく発動しない。なぜだ。今までそんなこと起きたことがない。


「はは、すまないね。君の異能は強力だから、少し紅茶に細工をさせてもらった」


何度も試すが全く発動しない。相手に対しても自身に対しても。くそ、紅茶なんて飲まなければ良かった。


「暴れられると面倒だから、少し眠っててもらおうか」


その言葉を最後に私の意識はふっと落ちた。




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