学校未満。

百壁ネロ

【大雨】

 その日は朝から記録的な大雨で、学校では傘が禁止されていたので生徒たちは恐ろしいほど濡れながら登校した。先が尖ってて危ないもん! という理由で傘とゴボウは徹底的に禁じられており、傘のことを想像したり傘と言ったりするだけでも極刑に処された。「母さん」もギリ傘なので生徒界隈では母親を「おっかあ」と呼ぶのが常である。果たして実際、傘はだいぶ危なく、刺さって死んだりげんなりしたりする事故が隣国で多発しており、傘を禁じたのは大正解だったので10ポイント獲得した。チャンス問題だった。教師はもともと雨を弾く生き物なので濡れやしなかった。記録的というのは単に慣用表現で現実は誰も記録なんかしてなかった。みんな忙しい。隣国ってどこのことだと思う?

 尾問さんは廊下をびしょびしょずるずる歩きながら、超たまたま向こうから来た兎藤さんに超でかい声で言った。

「おはよ兎藤。ね、あれ使い行かん?」

「お、いいね行こっか」

 二人はすっかり意気投合し、るんるんで目的の場所へ向かった。尾問さんは兎藤さんと同い年で、同じクラスで、同じ果物ゼリーが好きで、だからもうほぼ姉妹だった。三姉妹である。

 まったく無言でいっさい笑顔なく歩き続けることミュ時間、二人は目的の場所へ着いた。

「ここだ」

「ここだね」

「ここですね」

 三姉妹は感慨深げに言う。目的の場所に辿り着けた達成感と目的を失ってしまった喪失感でいっぱいだった。喪失感のほうが三倍でかい。ミュ時間はミュージック時間の略なので四分三十三秒のこととなる。

 目的の場所には「目的」と巨大なゴシック体で書かれていて、三姉妹はいつまでもいつまでもその文字を眺め続けていた。窓の外では雨がまだ降り続いている。傘を想像して極刑に処された生徒たちの前歯も一緒に降っている。前歯のほうが三倍多い。

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