白鐘ここね編:夢の国で、今日もきみに恋をする

「……えへへ、夢みたいだね、きょう」


わたしの声が、風船みたいにふわって浮かんで、

ふたりのあいだに静かに溶けた。


人がいっぱいのディズニーランドの中、

でも、彼といる時間はどこか別の世界みたいに感じられて。


「ここね、楽しい?」


「ん……うん。たのしいよ、すっごく。

でもね、たぶん、きみと一緒だからなんだと思うの」


ちょこんとつないだ手を、きゅっと握る。

彼はちょっとだけ照れくさそうに、でもちゃんと握り返してくれる。


観覧車はないけど、メリーゴーランドにふたりで乗ったとき、

わたしは小さく笑って――こう思ったの。


「ねぇ、あの時の音楽室、覚えてる?」


「うん。もちろん」


「わたしね、あの時、きみが現れてくれて……

ほんとうに、助けてくれたって思ってるの」


静かに、でもちゃんと伝えた。


タイムリープして、何度も同じ日を繰り返して。

誰にも気づいてもらえなかった、わたしの“助けて”の声。

でも、彼だけは、聴いてくれた。


「もう繰り返さなくていいって思えたの、きみと出会えてから」


「俺も……あの日、ここねに出会えたから今があると思ってる」


ふわっと胸があたたかくなる。

それはきっと、誰かを想うことの、いちばん優しい気持ち。


――お昼すぎ、少し混んだカフェで小さなチーズケーキをシェアした。

「ここねが先に食べなよ」って差し出されたフォークは、ほんの少し震えてた。


なんでだろうって思ってたけど、

わたしもおんなじくらい、ドキドキしてたんだって、あとで分かった。


「……ねぇ、あそこ、行ってみよう?」


誘ったのは、静かなアーケードの奥にある噴水広場。

さっきまでにぎやかだった空間が、ここだけ時間が止まったみたいで。

ベンチにふたりで座って、手をつないだまま、小さな沈黙が落ちてくる。


「きみはさ、これからも……わたしのそばにいてくれる?」


「うん。どんな時間でも、未来でも。俺は、ここねと一緒にいたい」


それを聞いた瞬間、わたしの胸に広がったのは――


あの音楽室で、何度も伝えたかった「ありがとう」と「好き」がまざった気持ち。


わたしは、そっと目を閉じて、

自分から、彼の唇に触れた。


やさしい、キスだった。


あったかくて、まっすぐで、何もこわくなかった。


それはきっと、終わらない時間じゃなくて、

これから始まる“ふたりの毎日”を感じさせてくれるキス。


唇が離れたとき、

ふたりで見上げた空に、パレードの花火の音が遠く聞こえた。


「……今夜、一緒にいられるの、うれしいね」


わたしがそう言うと、彼はほんの少し、照れた顔で頷いてくれた。


「うん。夢みたいな夜になると思うよ、ここねとだから」


えへへ、なんだか恥ずかしいけど――

でも、それがうれしかった。


そうして、わたしたちはまた手をつなぎ、夜の光の方へ歩いていった。


これからの未来、どんな季節がやってきても、

わたしはたぶん、今日のこの時間をずっと覚えてる。


だって、

夢の国で、きみに恋をして――

今も、ちゃんと続いてるんだもん。

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