エピローグ②「それぞれの“スプラッシュ・サマー・キス”」
ライブが終わったステージ裏。
楽屋には、さっきまでの熱気がまだ残っていて、
5人とも、額の汗も、まなざしの奥の熱も、まだ冷めないままだった。
「ふへぇ……さすがに燃え尽きたかも……」
ここねがソファにぽふんと座り込む。
「……でも、あったかい。からっぽじゃないの。なんか、胸の奥がずっと、ぽかぽかしてる」
ももかは、胸に手を当てて微笑んだ。
「……まだ、終わってないからじゃない?」
あおいが静かに呟いた。
その瞳の奥に、一瞬だけ“夜の島”の記憶がよぎる。
「そっか……。じゃあ、ラストのラストは――これから、なんだね」
しずくがつぶやくように言うと、
りりあがちょっと照れたように、唇を尖らせた。
「……もしかしてさ、今夜……また会えるかもって、思ってる?」
「えへへ……うん。わたし、もう一度キスしたいな。ほんとの、キス」
それぞれの胸に、忘れられない“誰か”がいる。
あの夏の一夜。あの昼下がり。あの海辺のキス。
そして、すべてを超えて「また会えた」奇跡――
ガチャリ。
控室のドアが、そっと開いた。
「――あっ」
最初に息をのんだのは、ももかだった。
廊下の向こうに、白いシャツの少年が立っていた。
黒縁メガネ、ちょっと照れくさそうに笑って――
「遅れてごめん。ラストステージ、ちゃんと見てたよ。……やっぱり君は、すごいな」
「……律くんっ!」
ここねが勢いよく立ち上がって、駆け寄った。
そのまま、胸に飛び込む。
「……ほんとに、会いにきてくれたんだ……!」
「会いにきたよ。だって――『きみの未来で、わたしを見つけて』って、言われたから」
そう言って、律はふわりと笑って、
ここねの頬に、静かにキスを落とした。
他のメンバーたちも、それぞれの“誰か”と再会していた。
ももかの横には、図書館で出会ったあの少年。
しずくの後ろに立っていたのは、鏡の中にいたはずの彼。
あおいの背中に、そっとタオルを掛けたのは、無人島で一緒に戦ったスタッフの少年。
そして――
「……来ると思った。ぜったい、くるって信じてたからっ!」
りりあは泣きながら、それでもツンと強がって、
けれど、澪の胸に飛び込んだ瞬間、
涙が全部こぼれてしまった。
「大好き……ずっと、一緒にいて……」
その願いに、彼らは全員、強くうなずいた。
やがて夜はふけ、
夏の空には、星と…花火の音が静かに広がっていった。
5人は手をつないで、観覧席からステージを見上げる。
もう誰もいない、けれど――きっと、心にはまだ歌が残ってる。
「ねえ、わたし……この夏、ずっと怖かった。
でも、今は――ぜんぶ宝物みたいだよ」
ももかがぽつりと、そう言ったとき。
「そうね……だって、あのとき、あの場所で出会えたから」
しずくが優しく微笑んだ。
「怖い夢も、涙も、傷跡も。…でも、全部を超えて――」
ここねが空を見上げる。
「『スプラッシュ・サマー・キス♡』になったんだよっ!」
りりあが元気に叫んだ瞬間、全員が笑った。
そして5人は、声をそろえて言った。
「#それが、わたしたちの――“スプラッシュ・サマー・キス”!」
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