春風ももか『七つ目のナゾは、恋の予感だった』

ステージ中央、強い白のピンスポットがひとつ、ももかを照らす。


ドラムのカウント、スネアの跳ねる音――イントロが鳴った瞬間、


「きゃあああっ、ももかちゃーん!」という黄色い歓声が波のように押し寄せた。




「――みんなっ、ありがとっ。聞いてね。“恋のナゾ”、ぜんぶ詰め込んだ歌、だから――!」




ふわっとスカートが揺れる。図書館風のアンティーク衣装に、リボン型の眼鏡アクセサリー。


それが彼女、春風ももかの“物語衣装”だった。




ステップ一つで舞台を駆け、ポーズ一つで視線を釘付けにする。


けれどその笑顔の奥に、ほんの少し――たったひとひらの切なさが、ある。




(――あのとき、わたしは、本の中で恋をした。


 閉じ込められた図書室。七つ目のナゾ。濡れたページに、やさしい声。


 “ここから出してあげる”って、彼は言った。嘘みたいに、あたたかい目で――)




歌声が跳ね、ギターが弾ける。


《Shining Clue》――今回の新曲、そのタイトルは「光る手がかり」。




観客のペンライトが波のように揺れる中、ももかは静かに歌い上げていく。


曲の中盤――それは、彼女にとって「過去の自分への手紙」だった。




(恋なんて知らなかったのに、名前を呼ばれるたびに胸が熱くなった。


 ドアが開くたび、あの子の笑顔が見える気がした。


 ……でも、夏が終われば、きっとこの気持ちも終わるって――思ってたんだよ、ほんとは)




ももかの目が、観客席のある一点を見つめる。




前列、静かに手を振る一人の少年。


――本当に、そこにいる。現実に戻ってきた、奇跡のように。




(あの日の“本”は閉じた。けれど、恋の続きは――現実で書いていくって、決めたんだ)




高らかに歌う。明るく、凛とした歌声。


でも、その中には「愛してる」が詰まってる。


それは誰にも真似できない、春風ももかだけのステージ。




最後のサビ前、静かに囁くように語る。




「……だから、わたし、信じたんだ。七つ目のナゾの答えは――恋、だって」




照明が広がる。まるで図書室の窓から、朝日が差し込むように。


ピンクとゴールドの光の中で、ももかは微笑んだ。




(ありがとう。――恋を教えてくれて。


 ありがとう。いま、ここで、歌わせてくれて)




フィナーレ。両手を広げ、最後の歌詞を届ける。




「“好き”って気持ちが、世界を変える――


 それが、わたしの《スプラッシュ・サマー・キス♡》!」




――ぱぁんっ!




ステージ後方で花火が上がった瞬間、


ももかの瞳が、ほんの少し潤んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る