400字の森

淡路結波

 昨日、右手の人差し指がじんわりと熱をもっていた。

 とくに怪我もしていないし、ぶつけた覚えもない。

 どうしてこんなふうになったのか、思いあたる節もなかった。

 風邪でもひいてるのか、それとも何かを予兆しているのか。

 無性に不安になった。


 熱源のあたりを注意深く見てみると、

 爪の生え際が、なぜか少し赤くなっているように見えた。

 気になって、指の腹を親指の爪でそっと押してみる。

 ほんの微細な痛みが、芯から染みるように走った。


 なんだろう。

 どうすれば治るのか、まったくわからなかった。

 夜は静かで、聞こえるのはエアコンの音と時計の針だけだった。

 ゆっくりと布団に入ると、指が枕に触れないようにして眠った。


 朝起きると、痛みはなくなっていた。

 何事もなかったように、指は元に戻っていた。

 私は助かったのだろうか。

 それとも、何か大切な糸口を見逃してしまったのだろうか。

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400字の森 淡路結波 @yu-Awaji

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