第2話 供出された姫達と

 ビリッ!

 

 俺は、目をつむり待った。しかし、いくら待っても首筋に衝撃しょうげきがこない。

 

 俺は、そっと目を開ける。すると、目に飛び込んできたのは、白い肌の美しく大きな双丘そうきゅうだった。えっと、どういう状況?

 

 結婚していなく、現在彼女のいない俺の心臓は、早鐘はやがねのようにドキドキしていた。落ち着け〜、落ち着け〜。

 

 俺の両手は、目の前の女性のドレスを下着ごと引き裂いたようだった、その布が強く握られていた。俺は、そっと布地ぬのじを合わせて美しい双丘を隠す。

 

「良いものを見せて頂きました」

 

「はい?」

 

 身長の高い茶色の髪でブラウンアイの美しい女性が、両手で布地を押さえつつ、おびえた表情から、不思議そうな表情に変わり、こちらを見る。それにしても綺麗な人だな〜。

 

 俺は、周囲を見回す。そうか、今は、各国から無理やり供出きょうしゅつさせた姫達を三人で順番に選んでいる最中さいちゅうのようだった。

 

 ようやく転生後の記憶。要するにこの男、ジョバンニ・タイラーと、しがない日本の会社員30代男の記憶が混ざりあった。しかし、このジョバンニ・タイラー本当にろくでもない男のようだった。現に今も。


「俺こいつね〜。それにしても良い身体してんな〜」


 と言って、姫達の一人に近づきドレスを引き裂いた所だった。まあ、そんな勢いで近づいてドレス引き裂かれて胸見られて、「良いものを見せて頂きました」って、言われたら意味不明だろうな。現代日本だったら、セクハラで懲戒解雇ちょうかいかいこ。いやっ、性犯罪で逮捕だろうか?


「ジョバンニは、その女で良いのか?」


「ああ」


 アレッサンドロ・タイラーが声をかけてきたので、俺も不自然にならないように返事をする。


「では、次はフェルディナンドお前だ」


「俺か〜。じゃあ」


 フェルディナンド・タイラー。アレッサンドロ・タイラーの弟。比較的小柄な兄と違い筋肉質で大柄な男だった。タイラー大公家の血筋らしい。性格も粗野そやで、きつい性格の女性を力で押さえつけるのが好きというねじくれた根性の持ち主だった。


「俺、この女〜」


 フェルディナンドは、フェルディナンドをキッとにらみつける女性の手を取る。


「や、やめて、離して」


 大柄なフェルディナンドに手を取られ、引きずられるように引かれても女性は気高けだかに拒否する。


「じゃあ、再び私か」


 フェルディナンドが女性を選び終わると、その兄アレッサンドロが下卑げびた表情を浮かべ女性達の方に進み出る。そして、迷わずまだ10代前半だろう姫の手を取る。


「いやっ〜、帰してよ〜」


「大丈夫だよ〜。楽しい事しようね〜」


「いや〜」


 アレッサンドロは、若い女性というか、年端としはもいかない女性というか、女児に対して性的興奮する男だった。本当に気持ち悪い。だが、下手に動けない。アレッサンドロは、タイラー大公家の直系なのだ。そして、狡猾こうかつな男で何をされるか分からない。俺は、そのまま馬鹿なジョバンニを演じる。


「さあ、またジョバンニの番だぞ」


「ああ、俺は……」


 そう言いつつ、俺は姫達の方を見る。残った6人の姫達は嫌悪けんおの表情を浮かべていた。


「みんな可愛いしお前達が選んだ後、残った女性で良いや」


「そうか? なら、フェルディナンド」


「おう」


 嬉々ききとして姫達の方に向かうフェルディナンド。姫達は少しずつ後退して恐怖や嫌悪感で顔をゆがまさせている。


 良くこんな事思いつくよな。俺は、アレッサンドロを見る。


 この大陸を統一したジャポニア帝国。その統一の功労者が今は亡き先代タイラー大公、デッサンドロ・タイラーだった。そして、そのタイラー大公家を継いだのが、ジャポニア帝国の軍事のトップ大将軍であるイゴーリ・タイラーで、その息子達が、アレッサンドロとフェルディナンドだった。

 

https://kakuyomu.jp/users/guti3/news/16818792437947906424


 で、俺というかジョバンニは、イゴーリの姉カテリーナ・タイラーとタイラー大公家に婿入むこいりした帝国宰相ルーカス・タイラーの息子だった。アレッサンドロ、フェルディナンドとは従兄弟いとことなり、一番年上がアレッサンドロ、俺が次で、フェルディナンドが一番年下だった。


 で、20代後半に差し掛かり、まだまだ遊んでいたい三クズだったが、結婚適齢期を過ぎようとしている俺達を心配した叔父のイゴーリの提案を狡猾なアレッサンドロが悪用し、ジャポニア帝国傘下の国々に無理やり9人の姫達を供出させて、その中から俺達が好みの女性を選んでいるという状況だった。全く羨やましい事で……。羨ましいか?

 

 でだった。約1年後には多分処刑される運命だ。ジョバンニの記憶を思い出していた俺は、俺自身の記憶を思い出す。

 

 確か、主人公サイドのイベントで、賢く才気さいきあふれるイケメンのロレンツォ・ミナモートが、婚約者の見目麗みめうるわしい水晶すいしょうの姫とも呼ばれたマリア・ホージョーを奪われ怒りに燃え、ホージョー家に怒鳴り込み。マリア・ホージョーの父親にはあしらわれたが、主人公の一人であるマリアの兄ドミニクと意気投合いきとうごうし熱く語り合いタイラー大公家の打倒を誓うという感じだったと思う。

 

 まあ、要するに失策続きの三クズの大失策の始まりだった。

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