朝焼
在原銀雅
朝焼
今までにないほど綺麗な朝焼けの空だった。私は、思わず声が出た。何十年と色んな所で色んな景色を見てきたが、ここまで綺麗な朝焼けを見るのは初めてだった。周りには人がいなくてこの景色を独り占めだと思っていた。
しかしそんな中、一人不思議な青年がいた。アイロンをかけ忘れたようなしわくちゃなワイシャツとスラックス、リュックサックを背負っているがいかにもこの場所には不向きな服装である。それにひょろっとしていてかなり痩せている。
私は、その青年に声をかけてみた。なぜ、そのような格好でこの場所にいるのかと。すると、青年から思いもよらぬ答えが帰ってきた。
「僕は、もうこの先短いんです。病気であともって数ヶ月の命だそうです。」と、この話を聞いて私は言葉を失った。
話によれば、この青年はまだ高校生で入院して一時退院でこの朝焼けを見に来たらしい。私はもう一つ質問をした。やりたいことはないのか、そう言うと、青年は少し考え私にこう答えた。
「僕は、やりたいことを全部しました。もう、心残りはありません。ですが、一つだけ…」そう言うと、青年は背負っていた、リュックからとある袋を出した。その袋は小学生が持っていそうな巾着に見える。その袋を取り出すと青年は「この袋をあなたに受け取ってほしいです。」青年からこのようなことを言われたので私はなぜかと聞いてみた。青年は「僕が生きていた証を誰かに残して逝きたいのです。」そういい終えると、青年は私にその袋を渡してきた。私は断ろうとしたが、断れなかった。
青年は私にそういい終えるとその場を去っていったのだ。どんどん青年の背中が遠くなっていく。ついには青年は見えなくなった。その時には空は薄い青と朝焼けの紅の混ざった幻想的な色をしていた。
例の一件から私は数ヶ月が経った。ふと、あの青年から託された巾着が目に入った。私は巾着の中身を見てみた。その巾着の中身を見た瞬間、涙が出た。そこには青年の若い時の写真や、おもちゃが少しと1枚の紙があった。内容はこの前青年に会った場所の近くにある公園の楢の大木の下にこの巾着を埋めてほしいというものだった。私は手で巾着が入るまで穴を開け巾着を埋めた。すると、あの青年の声で「ありがとうございます」と耳元で聞こえた。
後で知ったことだが、私が巾着を埋めたときとほぼ同時刻に青年は息を引き取ったようだ。青年はこのことを知って私に託したのだろうか。私は疑問が沢山あったが、その疑問の真相を知っているのは青年だけだ。
朝焼 在原銀雅 @arigin1017
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます