第10話 光にあふれた世界

 ピピッ ピチチッ

遺跡から出たとき、日はまだ高く上がっていた。

遺跡から見える藤石町を見渡したとき、私たちはここに帰ってきたのだと実感した。

何も変わっていない平和な藤石町を前に、安心したのは言うまでもない。

ヨルム「帰って、きたんだ…」

ネイン「長いようで、短かったね…」

11人が平和をかみしめていると…

ジェル「先ぱーい!」

アレナ「よかった!無事だったんですね!」

ヴェネス「心配しましたよ!」

ネインたちの後輩、アレナ、ジェル、ヴェネスが息を切らして走ってきた。

ちなみにアレナはデザイナー、ジェルはヘアデザイナー、ヴェネスはリヤンの病院の隣で薬局をしている薬剤師だ。

ヴィーシュナ「お、3人ともどうしたの?そんなに息を切らして」

ヴェネス「どうしたもこうしたもないですよ!」

アレナ「先輩方、行方不明になってたんですよ!?3日間も!」

ジェル「本っ当に心配しましたよ!」

ペルシカ「…え?」

アーシャ「3日間、行方不明?」

アレナ「藤石町のみんなで探しても見つからなくて…」

ジェル「よかったぁ…無事で…」

リス「え、ちょっと待って、ホントにどういうこと?」

リヤン「…あぁ!本当だ!確かに3日経ってる!」

リヤンの時計には、11人が遺跡に入った3日後の日付が示されていた。

カウル「私たち…ホントに3日間行方不明になってたってこと…?」

ムート「…あ!こういうの、前にもあったことない?」

ラルム「前…あーーー!時計塔か!」

キルシェ「確かあの時も、かなりの時間が経ってたのに時計塔出たら5分しか経ってなかったよね!」

「君たちは、向こうの世界で少し長居したのではないか?向こうの世界は、こちらと時間の流れが違うからな」

坂道を、セピア色の髪の男がゆっくりと上ってきた。

その左腕はなく、右手にはボロボロになった包帯を巻いている。

リヤン「…!セピアさん?」

リヤンの目が、大きく見開かれた。

彼の体は、もう茶色ではなかった。

ちゃんとした、存在ひとの肌の色をしている。

ただ、その茶色く、優しい瞳だけは何も変わっていない。

「彼女が、私をこの世界に呼んでくれた。今はもう、物ではない。ちゃんと、命がある」

セピアは微笑みながら、自身の胸に手を当てた。

リヤン「よかった…。本当に、よかった!」

リヤンは、弾けんばかりの満面の笑みで笑った。

その光景に、全員がほっこりしていると…

ソア「あー!みんなおるやん!」

ヴェラ「リスー!リヤン!心配したよ!」

マツリ「こらアーシャ!心配したでしょ!」

アーシャ「マツリー!」

マツリ「とりゃー!」

アーシャ「うわぁー」

見慣れた光景である。

フェルン「よかったー…みんな、無事だったんだ」

ソア、ヴェラ、マツリ、フェルンが走ってきた。

ソア「もー!心配したやろ!」

ヴィーシュナ「いや、これはソアが悪い」

ラルム「お前が変なフラグ立てたせいやで」

ソア「なんでやねん」

リヤン「ごめんね〜、心配かけたね」

リス「無事だから!」

ヴェラ「もー!ホントに心配したよ!もう帰って来ないんじゃないかって思っちゃったじゃーん!」

アーシャ「マツリー!会えなくてさみしかったよ〜!」

マツリ「帰ったらみっちりお説教だからね!」

アーシャ「えぇー…やだー…」

マツリ「やだじゃない!」

ネイン「…あ、フェルンちゃん、杖の修理お願いしてもいい?」

フェルン「ムートちゃんの次はフェルンちゃん?いいよ。一体どこが壊れ…」

ネインは、杖(だったもの)をフェルンに見せた。

フェルン「まさかの大破!?え、うそ、ただの棒じゃん。一体何したの!?」

ムート「ネインが杖の物理特攻しまして…」

フェルン「うっそぉ…」

アレナ「…あっ」

カウル「アレナちゃん?どうしたの?」

アレナ「あの…ラルム先輩…」

ラルム「んー?どした?」

アレナ「その、誠に申し上げにくいんですけど…」

ペルシカ「歯切れが悪いなぁ。どうしたの?」

ヨルム「なにかあった?」

アレナ「ラルム先輩、交番に鍵して行かれませんでしたよね」

ラルム「うーん?あぁ、すぐに戻ると思ってして行かんかったな。それがどしたん?」

ヴェネス「実は、交番に泥棒が入りまして…」

ジェル「色々荒らされてたんですよね…」

ラルム「…え」

カウル「交番に盗みを働くなんて、大した度胸の持ち主だね〜」

ソア「言ってる場合か!」

ヴィーシュナ「ラルム、大丈夫?ショック受けてるんじゃ…」

ラルム「おーおー…鬼の居ぬ間に何やかんやとはまさにこのことやな。覚悟しとけよ犯人…。改造したこの超強力BB弾、1つ残らず体に埋め込んだるわ」

カチャリと、ラルムは銃のコックを起こした。

その表情は、般若のごとく笑っている。

リヤン「犯人今すぐ逃げてー!」

ラルム「首洗って待っとけよ犯人!ウチのスマホ返せやー!!」

ネイン「こんな状況でも大事なのはスマホなの!?」

ラルム「当たり前や!ウチの生命線やからな!」

リス「絶対もっと大事なものあると思う!」

アレナ「あ、あとキルシェ先輩」

キルシェ「はい!キルシェです!」

ジェル「妹さんからの伝言です。『ドニャゴンクエストのセーブデータ全部飛んでたよ』だそうです」

キルシェ「なにぃぃぃ!?うそでしょっ!?キルシェの今までの涙ぐましい努力は!?」

ヨルム「お前もゲームなんかい!」

キルシェ「だって!コンプまであと一歩だったんだよ!?早く復元しないとー!!!」

ラルムとキルシェが鬼の形相で山を駆け下りていくのを、残りのみんなは苦笑しながら見ていた。

 それから数日後…藤石町ではまた、新たなウワサが広がりつつあった。

「遺跡で音がする本当の理由、知ってる?」

「あれってホントは、オバケとかじゃないんだってさ」

「月の神様とその巫女が、宴をしているんだよ」

「その神様は、巫女の女の子を喜ばせたいだけなの」

「だから、なんにも怖くないんやで」

「音がしても大丈夫」

「それは、その神様が女の子を喜ばせようとしているだけだから」

「あと、遺跡と時計塔にはなるべく近づいちゃダメだよ」

「別の世界に飛ばされちゃうからね」

「誰かの大切な場所は、汚しちゃいけないんだよ」

 このウワサのおかげで、遺跡が怖がられることはなくなった。

遺跡では今日も、笛の音が響く。

1人の少女を喜ばせていた音色は今や、藤石町に住む色々な存在ひとを楽しませるようになっていた。

月詠を見た者は、あの時以来誰もいない。

誰も、彼女の行方を知らない。

影と光は、共にはいられない。

必ずどちらかが、消えてしまう。

彼女は、それを知っていた。

けれど…風は平等だ。

どんな子の元にも、必ず訪れる。

優しい光に照らされる町には今日も、静かな風が吹いた。

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フェリクス 胡蝶の泉と青い桜 狛銀リオ @hakuginrio

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