フェリクス 胡蝶の泉と青い桜

狛銀リオ

第1話 町に広がるウワサ話


 ここは人が生きる世界とは少し違う世界にある町、藤石町。

ここには、様々な役職を持った子供たちが住んでいた。

魔法使いの双子、ネイン&ムート、絵師のアーシャやマジシャンのキルシェ、警察官のラルム、お花屋さんのカウルと歌手のヨルム。

天気予報士のペルシカや医者のリヤン、教師のリスなどなど。

そんな彼女たちは、とあるウワサのことを話していた。

 ある気持ちの良いお休みの日、リスとリヤンは庭師のヴェラに病院の庭の手入れをしてもらいながら話していた。

リヤン「今日は良い天気だねぇ〜」

ヴェラ「お昼寝したくなるような天気だね!」

リス「あ、そういえば話変わっちゃうんだけど、最近クラスでとあるウワサ話が広がってるんだよね」

リヤン「ウワサ話?」

リス「そう。町の外れの明山の上に、すごく古い遺跡があるでしょ?」

ヴェラ「あるね。怖そうだから、あんまり行きたくないんだよね〜」

リス「そこから、笑い声とか話し声とかがするんだって。生徒の子が言ってた」

リヤン「まず、小学生がそんなところに行っちゃダメだと思うんだけどなぁ」

ヴェラ「でも、私もそのウワサ聞いたことあるよ。何言ってるのかは聞き取れないけど、なんか楽しそうなんだってさ〜」

リヤン「どうして聞こえるのかはさておき、楽しそうな声なら良いのかもしれないね」

リス「いいのかなぁ。そのウワサを聞いて、怖がってる子もいるんだよね。ほら、あそこの近くに山上公園があるでしょ?だから、怯えて遊べなくなっちゃってる子も何人かいるんだよ…。どうしかした方がいい気がするんだけど…」

ヴェラ「複雑だねぇ…」

 パン屋『ソラト』では…

ヴィーシュナ「こんにちはー!」

ラルム「来たでー」

ソア「おー、ヴィーシュナ、ラルム。いらっしゃーい」

店主であるソアが出てきた。

ソアが経営するパン屋『ソラト』は藤石町唯一のパン屋で、ヴィーシュナやラルム、ネインたちもよく買いに来るのだ。

ラルム「今日のおすすめなにー?」

ソア「ホットドッグは今出来立てやで。あー、でもカレーパンもおすすめやしクリームパンも捨てがたい…。いや、ここは間を取ってメロンパン?いやいや、でも今日は珍しくフランスパンもうまく焼けたしなぁ…」

ヴィーシュナ「あー!分かった分かった!じゃあ…カレーパンで!」

ラルム「ウチはお米パンー」

ソア「ラルムマイナーなやつ好きやな!」

ラルム「えぇー?マイナーちゃうやろ。めっちゃ美味しいで。お米パン」

ソア「分かるけどな?もうちょっと普通のヤツにせんのかい」

ラルム「ウチにとってはそれが普通やしー」

ソア「分からんわー…ヴィーシュナ、カレーパン」

ヴィーシュナ「ありがとう!いただきまーす!」

サクッ

ヴィーシュナ「ん〜!やっぱいつ食べても美味しいね!」

ソア「いやいや〜wどーもどーも!さすがはウチのパンですわ!」

ラルム「自我自賛かい!」

ヴィーシュナ「でも、ソアのとこのパンがめちゃくちゃ美味しいのは事実だよね」

ラルム「それはそう」

ソア「どーもどーも!」

ヴィーシュナ「あ、そういえば最近明山の上の遺跡の方で、変な音がしてるらしいね」

ソア「あ、それ知ってる。確かアインも言ってたわ」

アインは世界選手権で1位を取るほどの凄腕のゲーマーで、よくこのパン屋に来る常連客だ。

ラルム「ちょっとずつ広がってるみたいよな。ウチもウワサ話でよく聞くわ」

ソア「まーた変な事件にでも巻き込まれるんじゃないの〜?なーんて」

ヴィーシュナ「こらソア!雑なフラグ立てちゃダメ!」

ラルム「タイホするぞ〜」

ソア「えぇぇぇ!?あたしなんもしてないって!」

ヴィーシュナ「回収できないフラグを立てるのは犯罪です。みなさんもお気をつけくださーい」

ソア「初めて聞いたわ」

ラルム「それはそうと、ウチのお米パンまだー?」

ソア「あ、忘れとった」

ラルム「なにー?許さんー」

ソア「ごめんごめん!新作のフルーツサンド試食させたげるから許してや」

ラルム「許す-」

ヴィーシュナ「物でつられてるじゃん!」

 アーシャの家では…

アーシャ「マーツリー!」

マツリ「くっつくなー!」

アーシャ「うわぁー」

アーシャがマツリにくっつき、そして蹴り飛ばされていた。

マツリはアーシャの姉で、書道の先生をしている。

その妹であるアーシャは、マツリのことが大好きなのであった。

マツリ「夏だから暑くなる!はーなーれーてー!」

アーシャ「えへへ〜やだ〜」

マツリ「とりゃー!」

アーシャ「うわぁー」

…さっきから、ずっとこんな感じなのだ。

マツリ「あ、そういやアーシャ、知ってる?」

アーシャ「なにー?」

マツリ「ウチの家は、明山の近くにあるでしょ?」

アーシャ「そうだね」

マツリ「最近明山の上にある遺跡から、得体の知れない声が聞こえるんだって」

アーシャ「え…こわ」

マツリ「でもね、楽しそうな話し声らしいよ」

アーシャ「だとしても怖いでしょ。マツリー!」

マツリ「おりゃー!」

アーシャ「うわぁー」

 広場では…

キルシェ「うあああ~…。ひまだぁー」

キルシェが、手から花を咲かせながらうめいていた。

ネイン「あ、キルシェ。今日もマジックしてるんだね」

キルシェ「あー、ネイン。やっほ〜。今日1人?ムートは?」

ネイン「なんか、杖の調子が悪くなってきたみたいなんだ。だから直してもらってくるって」

キルシェ「魔法使いも大変だね〜。杖がないと魔法が使えないもんね」

ネイン「そうそう。でも、メリットの方が多いから大丈夫だよ」

キルシェ「ま、それ言ったらマジックもおんなじか」

ネイン「マジックも難しそうだけどね」

キルシェ「まあ、ちょっとはね。でも最近平和すぎて覚えられるマジックは全部覚えちゃったよ」

ネイン「平和なのはいいことだよ」

キルシェ「そうなんだけどさー、こうも平和が続いてると、なんかこう、奇想天外なことが起きて欲しいって思うんだよね!」

ネイン「えー?平和が1番だよ〜」

キルシェ「そーだけどー!」

ネイン「うーん…奇想天外なこと、かぁ」

キルシェ「んー…。あ!そうだ!これは最近ヨルムたちから聞いた不思議な話なんだけどさ」

ネイン「不思議な話?もしかしてヤクザ!?」

キルシェ「絶対違うって!ヨルムたちがヤクザの不思議な話してたらおかしいでしょ!」

ネイン「じゃ、一体どんな話なの?」

キルシェ「それがね、明山の上の遺跡から音楽とか手を叩く音が聞こえるらしいんだよね」

ネイン「音楽?」

キルシェ「笛みたいな音らしい…」

ネイン「笛?一体どうしてそんな音が…?」

キルシェ「うーん…分かんないけど、遺跡で演奏会でもしてるのかなぁ」

ネイン「夜に墓場で運動会は聞いたことあるけど、遺跡で演奏会も聞いたことないなあ」

キルシェ「それもそれで聞いたことないよ?」

ネイン「というかそもそも、夜に墓場で運動会もアウトでしょ。迷惑だし、通報されるのがオチだよ」

キルシェ「スリルがあって楽しそうだね!」

ネイン「キルシェ?ヨルムたちが行かせてくれないと思うよ?」

 フェルンの研究所では…

ムート「ごめんくださーい」

フェルン「はーい!って、ムートちゃん。どうしたの?」

ゲームのコントローラー片手に、研究所の主であるフェルンが出てきた。

フェルンはゲーム好きな自称天才科学者で、ネインとムートの杖を作った張本人だ。

自称天才なもののその実力は確かで、何度かリヤンと共にこの町に襲いかかった病の毒牙から存在ひとびとを守ったことがあるらしい。

ムート「突然来ちゃってごめんね。最近杖の調子が悪くなっちゃって。多分ガラス玉の経年劣化だと思うんだけど…」

フェルン「分かった!コントローラー置いてくるからどこにでも座っといて!」

フェルンは一度階段を駆け上がってから、すぐに戻ってきた。

フェルン「お待たせ。んで、杖だったね。ちょうど良かったよ。昨日掃除してたらすごく良い材質のガラス玉が出てきてね、ムートちゃんにどうかなって思ってたんだ」

ムート「え!そうなの?それはタイミングが良いね!」

フェルンは、戸棚の奥から美しく磨かれたガラス玉を取り出し、ムートに見せた。

フェルン「ほら、すっごくキレイでしょう?」

ムート「ホントだ〜!こんなにキレイなものを使ってもらっちゃって良いの?」

フェルン「いいよいいよ!手に入れたは良いもの、使う機会はなかったからさ。実験の被害被るよりもムートちゃんに大切に使ってもらった方が良いと思ってたんだ」

ムート「ありがとう〜。やっぱりフェルンちゃんに頼んでよかった〜」

フェルン「それは嬉しいなぁ。じゃ、早速取り付けるね」

フェルンはムートから杖を受け取り、手際よく付け替えを始めた。

フェルン「あー、やっぱりムートちゃんの言ってた通り、経年劣化だね。これ作ってからもうだいぶ月日が経ったからね〜。よくもった方だよ」

ムート「私の使い方が悪いだけかもよ?」

フェルン「それはないよ。こんなに手入れされて大切にされてる杖なんて、中々ないからね。それはそうと…ムートちゃんこんな話知ってる?」

ムート「え?なになに?」

フェルン「この町の外れに明山って山あるじゃん?」

ムート「あるね。その山がどうしたの?」

フェルン「その山の頂上に遺跡があるんだけどね。その遺跡から、笑い声とか話し声がするらしいよ」

ムート「え、怖い。なんで?誰もいないはずでしょ?」

フェルン「そうなんだけどね。なんかけっこう前から声がしてるらしい」

ムート「事件性があるのかな…」

フェルン「分かんないけど…なんかいるのは事実だよね〜。…よし、できたよ。はい、どうぞ。これで魔法試してみて」

ムート「はや!ありがとう!」

ムートがフェルンから杖を受け取り、試しにそばにあったペンに空中魔法をかけてみた。

すると

フェルン「おぉ〜!すごーい!さすが魔法使い!」

ムート「すっごく調子良い!ホントにありがとう!」

フェルン「いや〜、よかったよかった!」

 地方放送局では…

カウル「お花届けに来ました〜!」

ペルシカ「おー、カウル!ありがとう!」

ヨルム「外暑かったでしょ?ちょっと涼んでいきなよ〜」

カウル「そうするー。ヨルム、7時からの音楽番組に出るんだっけ?ずいぶん来るの早いね」

ヨルム「ペルシカの天気予報がお昼からだからね。早く来た!」

ペルシカ「早すぎる気がしないでもないけどなぁ」

ヨルム「あ、そういえばカウルにはまだ話してなかったよね」

カウル「え?なになに?」

ペルシカ「私、この前、明山の上の遺跡近くに行ったんだ」

カウル「へ?なんで?」

ヨルム「まあまあ、そこは気にせずにさ」

ペルシカ「でね、あそこの遺跡ってまだ奥に何があるか、なんのために作られたのかが全然分かってないんだよ」

ヨルム「それは、リスがかなり前に言ってたことなんだけどね」

カウル「先生でも知らない、分かってないこの町の歴史かぁ。それで、遺跡で何かあったの?」

ペルシカ「びっくりしないでよ?その時、遺跡の奥から笑い声とか笛の音とか、手を叩く音が聞こえたんよ!なんか事件の匂いがすることない!?」

カウル「…」

ヨルム「あれ、カウルがリアクションないの珍しいな。ビックリしないの?」

カウル「え、ビックリしないでって言われたからがまんしてた」

ヨルム「あー、そういうことか」

カウル「遺跡で笑い声が聞こえたの?それも、声だけじゃなくて手を叩く音とか笛の音までなんて…なんかいるんじゃない?」

ペルシカ「そう!私とヨルムそう思ったの!だからね、〜〜〜…〜…〜〜〜〜ってことにしたんだ!」

ヨルム「どう?ちょっと大冒険してみない?」

ペルシカ「ちょっとって言ってる時点で大冒険ではないことない?」

ヨルム「それはそう」

カウル「…楽しそうじゃん!私も行きたい!日程どうする?」

ヨルム「次の土曜日は私もペルシカもお休みなんだ」

ペルシカ「だからその時…ね?」

カウル「分かった!残りのみんなにも伝えてくるね!」

ヨルム「ありがと〜。助かるわ〜」

カウル「あ、そういえばちょっと思ったことがあるんだけど、言っても良い?」

ペルシカ「なになに?何でも言って?」

カウル「ペルシカ、もうあと2分でお昼の天気予報の時間だけど…大丈夫そ?」

ヨルム「…あ」

ペルシカ「…」

ペルシカは1度目を閉じ、深呼吸をした。

そして

ペルシカ「もっと早く言ってよーーーー!!!!」

すごいスピードで部屋を飛び出し、走っていってしまった。

ヨルム「これ、間に合うのかなぁ…」

カウル「とりあえず遅刻フラグでも立てとく?」

ペルシカ「絶対立てるなーーー!!!」

カウル「うおお、ビックリした」

ヨルム「ちゃんと聞こえてるんだね。さすがペルシカ。耳が良い」

 ちなみにこれは余談ではあるが、ペルシカは滑り込みセーフでなんとかお昼の天気予報に間に合ったそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る