バナナから逃げ、バナナを愛する男

冒険者たちのぽかぽか酒場

第1話 逃げろ!朝バナナをバカにした罪の朝は、バナナ男と会社にいくのだ!

 玄関開けたら、もうバナナ。

 逃げろ!

 バナナが、追ってくる!

 まだ、追ってくる!

 バナナを、否定してはいけない。

 絶対に!

 少なくとも、うちの会社では。

 「朝バナナ食べる人って、多いよな?うちの新社長も、そうらしくてさ。オレは、興味ないけれど…」

 絶対に、言ってはならない。

 「ママ、新聞ある?」

 彼は、親元住まい。

 家族で新聞を購読しているので、今どき珍しく新聞を読んでいる。

 新聞紙面で特に気にしているのは、転職情報。

 彼は今、働いている会社を辞めて転職すべきか悩んでいる。

 気乗りしない会社に、就職してしまったかららしい。

 「早く、辞めたい…。転職先は、イベント系の会社が良いかな。日本各地のイベント情報とか集める会社、良いよな…」

 それなら、情報を得る朝活も当然?

 午前も、 8時を回った。

 会社勤めの人なら、もう出社していておかしくない時間だ。

 が、彼は出社せず。

 顔も見たことのない新社長の男が、リモートでこんなことを言ったからだ。

 「我が社では、業務開始を午前 8時から10時に変更します!私は、バナナ世代の 1人。バナナと追いかけっこをし、働き方を変えていきましょう」

 バナナ世代って…。

 彼は、まだのんびり。

 「じゃ、いくか。いってきます…バタン」

 そうして玄関を開け放ったら、青みがかったバナナの房を結んだ鉄製っぽいチェーンをぶん回す、緑色のバナナのかぶり物をした男が声をかけてきた。

 「新卒君!今、出勤かい?」

 「…ヘンタイ?」

 「何だと、新入社員!お前は朝、バナナをバカにしたな」

 な、何なんだ。

 「逃げろ!」

 言うより早く、彼の足は回転をはじめていた。

 会社を目指し、走れ!

 正確にいえば、会社にいくために利用する駅まで走れ!

 「良し!」

 駅前の交差点にかかる横断歩道の緑色信号が点滅していたが、見事、渡り切ることに成功。

 勝利の予感!

 いつも利用する駅は、目の前だ。

 ちょうど歩道を渡り切れたとき、緑色の点滅が黄色に変わったのが見えた。

 「間にあった…」

 目当ての電車に乗り込み、席を確保。

 ホッと一息ついて横を見たら、黄色いバナナのかぶり物をした男が座っていた。

 「オレより、早く座っている…?なぜ?」

 バナナは、緑色から黄色に熟していた。

 この男、成長したのか?

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