かまぼこ探訪記(わたしとクロシリーズ)

豊臣 富人

第1話 かまぼこ

 冬休み


 正月のかまぼこが大量に余ってしまっていた。


 わたしが母に「おやつない?」と尋ねたところ、かまぼこを二本出された。かまぼこの単位は「本」なのかと思いつつ、自分の部屋へ運んだ。


 正直、正月には毎日食べていたし、お節料理のおかずの一つと思えば別に不味くもなく、気にならないのだが、「おやつ」として堂々とソロで出されると、なんか違うな、と思ってしまう。

 部屋のドアを開けて、相棒に手伝ってもらおうとクロを呼んだ。

 クロは本棚の上で居眠りをしていたが、食べ物の気配を感じて素早く目を覚まし、床へ降りてきた。


「かまぼこじゃないですか。もう晩ご飯でしたっけ?」

「いや、これはおやつ。正月の在庫処分だよ」

 わたしとクロはちゃぶ台を囲み、かまぼこを食べ始める。

「せめてお茶でもあればよかったか」

「猫のワタシにはこれで十分ですよ」


 最後の一切れを残してもなおわたしの不満は続く。

「そもそもかまぼこって、お酒のつまみとかじゃないの? わさび醤油とかが合うのかな」

「渋いですね。小学生のくせに」

 最後の一切れを摘んで、わたしの頭にある疑問が浮かんだ。

「かまぼこってなにでできてるんだろう?」


 クロが一瞬思考停止したようにフリーズしてから答えた。

「魚……じゃないですかね?」


 わたしは、ひょいと最後のかまぼこを口に運びながら考えた。

「こんな魚いるの?」

 クロは勉強机に飛び乗り、学校から貸与されたタブレット端末を前足でとん、と指した。

「インターネットで調べてみろってことか。どれどれ」わたしは机に向かって、タブレット端末をぱかっと開いた。

 クロが大きな目で画面を見つめ、「ウィキペディアってので調べるんです」

「はいはい、ういきぺでいあ…っと」


 しばらく画面を見つめるわたしだったが、画面上にあるのは難しい漢字とかまぼこの画像だった。

「ん〜小学生には難しすぎるな」

 わたしはタブレット端末を閉じて腕を組み頭を傾げた。


「そしたら、かまぼこ屋に聞きに行きましょう」クロは耳をピンと立てて言った。


「かまぼこ屋? ……そんなお店あったっけ? かまぼこならスーパーに行けば売ってると思うけど」そう言ってわたしは近所のスーパーを思い描いた。「いや、スーパーはダメか。パートのおばちゃんか学生バイトしかいないしな」


「じゃあ、商店街ですね」


 なるほど、スーパーの手前にもっと古くからある商店街があった。そこなら肉屋も魚屋も八百屋もあるので何かしらの手がかりは得られそうだ。

 わたしは本棚に置いてある時計を見た。

「まだ三時だし行ってみるか。うまくいけば夏休みの自由研究になるかもだし」

「今は冬休みですけどね」


 わたしとクロはそそくさと出かける準備をして商店街へ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る