第6話 告白
「あー疲れたー」
あれから家に帰ったら父さんと母さんに怒られて、その後は家族会議が始まって………気が付いたら夕方になっていた。
夕日が綺麗だ。
こんな風に思える日が来るなんて………朝の俺は考えもしなかっただろうな。
今日は濃い一日だった。
自殺しようとして、灯里さんに出会ったり、幽霊の双葉さんと出会ったり、何より、今までの悩み事が今日一日で全部無くなった。
「ほんと、灯里さんに会えてよかった」
灯里さんに会っていなかったら、俺は今頃この世にいなかっただろう。
両親に自分の気持ちを伝えることも無かった。
友達に素の自分を見せることも無かった。
高校生にもなって大声で泣くこともなかった。
そして、一人の女性に恋い焦がれることも無かった。
会いたい。そんな気持ちが歩いている俺の足を急かす。
ほんと、今日一日で変わったなー
朝来たとき、俺の前の廃ビルは自殺の為の場所でしかなかった。
それなのに、今は好きな人に会える場所になっている。
俺は屋上に行くために、廃ビルの外につけられてある螺旋階段を登り始めた。
一段一段登るたびに、灯里さんのことを考えてしまう。
俺はいつから灯里さんを好きになったんだろうか?
自覚したのはついさっきだ。
だが、好きになったのはいつだろう?
灯里さんに泣きながら全てを打ち明けたときだろうか?
それとも、双葉さんのお墓の前で灯里さんの笑顔を見たときだろうか?
分からない。
じゃあ、なんで好きになったんだろう?
自殺を止めてもらったから?
俺の悩みを聞いてくれたから?
俺に優しくしてくれたから?
頑張れって言ってくれたから?
多分、全部だろうな。
そんなことを考えていたら、屋上に繋がる扉の前まで来た。
「ヤバいな。凄くドキドキする」
自分の心臓じゃないくらい、心臓がうるさい。
緊張して開けるのを躊躇ってしまう。
「………行こう!」
長い思考に終止符を打ち、屋上への扉を開ける。
そこには、朝と同じように煙草を吸っている灯里さんがいた。
「やぁ、峻」
「どうも、灯里さん」
灯里さんに返事を返し、俺は灯里さんの隣に腰を下ろす。
「終わったのか?」
腰を下ろした俺に問いかける。
「はい、終わりました」
俺は笑顔でそう答える。
「そうか」
灯里さんは安心したようにそう呟いた。
どこまでも優しい人だ。
「灯里さん」
「なんだ?」
「今から俺のいうことは独り言です。だから、返事は返さなくていいです」
これは俺の自分勝手な気持ちだから。
「分かった」
「俺は、灯里さんのことが好きです」
「………」
「それだけです」
「峻」
「はい?」
「今から私が言うことも独り言だ。だから、返事はいらない」
「分かりました」
「私は、もし峻に好きと言われたら、付き合うと思う。私は峻が好きだから」
「………」
「それだけだ」
俺達の間に無言の時間が流れる。
「灯里さん」
「なんだ?」
「今から言うことは独り言じゃないです。だから、返事をください」
「分かった」
「俺は灯里さんのことが好きです。だから、付き合ってください」
「はい。喜んで」
「「フフッ」」
俺達は同時に笑みをこぼしてしまった。
「何笑ってるんだ、峻」
「灯里さんこそ」
「だって、不思議な気分だったから。出会ったばかりの峻を好きになって、付き合うなんて」
「俺もです。でも、悪い気はしません」
「私もだ」
「ねぇ、灯里さん」
「なんだ?峻」
「俺は多分、この夏のことを一生忘れません。貴女と出会ったこの夏のことを」
「私もだ」
「灯里さん」
「なんだ?」
「あなたに出会えて、本当に良かった」
「私もだよ、峻」
自殺しようと入った廃ビルの屋上には煙草を吸っているお姉さんがいた 暇つぶしだー @seiryousui90
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