第20話:決勝の熱狂、彼の舞台

朝焼けが、

空を、

鮮やかなオレンジ色に染めていた。

昨日とは違う、

特別な朝。

男子バスケ部の、

インターハイ予選決勝の日だ。


私の心臓は、

朝から、

不思議と、

高鳴っていた。

自分の試合の時よりも、

もしかしたら、

緊張しているかもしれない。


遠藤くんは、

今頃、

どんな気持ちでいるだろう。

昨日、

言いかけた言葉。

「もし、決勝に勝てたら……」。

あの、

真っ赤になった顔が、

頭から離れない。


朝食も、

なんだか喉を通らない。

チームメイトからは、

「美咲、今日、元気ないね?」

なんて心配された。

まさか、

後輩の男子の試合が、

こんなにも、

私を、

緊張させているなんて、

言えるはずがない。


午前中に、

女子バスケ部の、

軽い練習と、

ミーティングを済ませる。

体は、

動かしているのに、

心は、

ずっと、

遠藤くんのいる、

決勝の舞台へと、

向かっていた。


そして、

午後。

私は、

再び、

あの熱気に包まれた体育館へと、

足を運んだ。

今日の会場は、

昨日よりも、

さらに、

多くの観客で、

埋め尽くされている。

ざわめきが、

まるで、

巨大な生き物みたいに、

うねっている。


観客席の、

少し高めの位置から、

コートを見下ろす。

男子バスケ部の選手たちが、

アップを始めている。

その中に、

遠藤くんの姿を見つけた。


彼は、

いつも通りの、

真剣な顔で、

黙々と、

シュート練習をしている。

その背中は、

昨日よりも、

さらに、

大きく、

頼もしく見えた。

彼の放つボールの音が、

私の心を、

静かに、

しかし、

強く、

打ち鳴らす。


試合開始のブザーが、

甲高く鳴り響いた。

男子バスケ部の、

インターハイ全国大会への、

最後の戦いが、

いよいよ始まった。


相手は、

県内屈指の、

強豪校。

エースは、

身長2メートル近い、

巨大なセンターだ。

その存在感だけで、

相手チームの、

威圧感が、

増している。


試合は、

序盤から、

激しいものになった。

両チームとも、

全国への切符を、

懸けている。

一歩も、

譲らない。

点の取り合いが続く。


遠藤くんは、

スタメンで出場していた。

彼の小さな体が、

大きな相手選手たちの中にいると、

埋もれてしまいそうに見える。

それでも、

彼は、

臆することなく、

コートを駆け巡る。


彼の、

小刻みなステップから繰り出される、

予測不能なドリブルが、

相手ディフェンスを、

次々と翻弄していく。

あの、

私との練習で、

磨かれた動きだ。

彼の足元は、

まるで魔法みたいだった。

相手選手が、

彼に翻弄されて、

体勢を崩すのが見える。


相手ディフェンスは、

彼を止めようと、

必死だ。

ダブルチームで、

彼に襲いかかる。

だが、

彼にマークが集中すると、

彼は、

冷静に、

フリーになった味方へ、

正確なパスを出す。

味方が、

楽々とシュートを決める。


彼は、

ただ点を取るだけでなく、

コート全体を把握し、

流れを自在に操る存在だった。

その戦術眼は、

まるで監督のようだった。

彼のパス一つで、

チーム全体の動きが、

劇的に変わる。


(すごい……!)


私は、

心の中で、

感嘆した。

遠藤くんは、

間違いなく、

チームの、

キープレイヤーになっていた。

彼のバスケには、

底が知れない。


試合は、

中盤に差し掛かり、

さらに、

ヒートアップしていく。

相手のディフェンスは、

ますます厳しくなった。

遠藤くんは、

何度も、

激しい当たりを受ける。

体が、

ぶつかり合う音が、

客席まで届く。

それでも、

彼は、

倒れない。

立ち上がり、

また、

ボールを追う。

彼の、

不屈の精神力が、

コートに満ちている。


点差が、

少しずつ、

開いていく。

相手チームが、

リードを許し始めた。

観客席からも、

「頑張れ!」という声と、

「もうダメか……」という、

諦めにも似た声が、

聞こえてくる。


彼の顔には、

疲労の色が濃い。

呼吸も、

荒くなっている。

シャツは、

もう汗でびっしょりだ。

それでも、

彼の瞳は、

決して、

諦めてはいなかった。

その目は、

勝利だけを、

真っ直ぐに見据えている。


(頑張れ、遠藤くん……!)


私は、

観客席から、

心の中で、

彼に、

声援を送った。

私の声は、

彼に届かないけれど、

私の思いは、

きっと、

届いているはずだ。

そう信じて、

私は、

彼のプレイを、

見守り続けた。


全国への切符をかけた、

決勝戦は、

まだ終わらない。

この熱狂の先に、

彼が、

どんな景色を、

見せてくれるのか。

私の心は、

期待と、

不安と、

そして、

彼への、

「好き」という感情で、

満たされていた。

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