第16話:決戦の舞台、覚醒の眼差し
インターハイの全国大会をかけた、
県予選の決勝戦。
体育館は、
これまで以上の、
熱気に包まれていた。
会場を埋め尽くす観客の声援が、
まるで地鳴りのように響く。
まぶしい照明が、
コートを、
そして、
選手たちを、
容赦なく照らし出す。
相手は、
私たちの宿命のライバル。
昨年、
全国への道を阻まれた、
因縁の相手だ。
リベンジ。
その思いが、
私たちの胸に、
熱く燃え上がっていた。
ロッカールームの緊張感は、
極限まで高まっていた。
誰もが、
静かに、
しかし、
強い決意を、
瞳に宿している。
「みんな、落ち着いて。
いつも通りで大丈夫。
私たちは、
この日のために、
たくさん練習してきた。
絶対、勝つぞ!」
私の声が、
震えないように、
力強く、
響かせる。
主将として、
私が、
チームの不安を、
払拭しなければならない。
みんなの視線が、
私に集中しているのが分かる。
コートに足を踏み出す。
歓声が、
一段と大きくなる。
その音の渦の中に、
自分が吸い込まれていくような、
不思議な感覚に陥る。
試合開始のブザーが、
甲高く鳴り響いた。
私たちの、
インターハイへの、
最後の戦いが、
いよいよ始まった。
序盤から、
激しい攻防が続いた。
相手チームは、
私たちの動きを、
徹底的に研究している。
ディフェンスは、
これまで以上に、
タイトだ。
私も、
エースとして、
相手の厳しいマークに、
苦戦を強いられた。
ボールを持てば、
すぐに二重、三重のディフェンス。
体が、
ぶつかり合う音が、
何度も、
コートに響く。
(くそっ……!)
なかなか、
思うように、
プレイできない。
焦りが、
私の心に、
じわりと広がる。
このままでは、
チームに、
貢献できない。
主将として、
私は、
もっと、
何かしなければならない。
点差が、
少しずつ、
開いていく。
相手チームが、
リードを奪い始めた。
このままでは、
昨年と同じ、
悔しさが、
私たちを襲う。
その時だった。
私の耳に、
他の声援とは、
明らかに違う、
ある声が、
響いてきた。
「先輩ーーーっ!!」
それは、
まさしく、
遠藤くんの声だった。
普段の、
無口な彼からは、
想像もできないような、
大きく、
そして、
必死な、
叫び声。
私は、
驚いて、
観客席の一角に、
目を向けた。
そこに、
彼の姿があった。
彼は、
私のことだけを、
真っ直ぐに見つめ、
両手を大きく広げて、
私に、
声援を送ってくれている。
彼の顔は、
汗で光り、
その瞳は、
強い光を宿していた。
(……あの子の声……?
まさか、彼がこんなに声を出して、
応援してくれるなんて……)
私の心臓が、
ドキン、と、
大きく跳ねた。
まるで、
会場中の音が、
一瞬にして、
遠ざかるみたいに。
その場には、
彼と私だけしかいない、
そんな錯覚に陥った。
彼の声だけが、
不自然なほど、
クリアに、
私の耳に、
胸に、
響く。
「(どうしよう……こんな大声、出したことない。
俺なんかが声を出して、先輩に届くかな……邪魔にならないかな……)」
彼の心の声が、
聞こえた気がした。
それでも、
必死に、
声を絞り出したのだろう。
その覚悟が、
痛いほど、
私に伝わってくる。
「(こんなところで、
弱気になれるわけないじゃない……!
彼が見てくれているんだから……!)」
私の中に、
静かに、
しかし、
確かに、
闘志が燃え上がった。
彼との、
公園での練習の日々。
彼が、
「背が低いから」と、
諦めずに、
シュートを打ち続けた姿。
彼の、
ひたむきな努力。
その全てが、
私の体を、
突き動かす。
この子がくれた力、
この子が教えてくれたこと、
全部出し切って……私は、勝つんだ!
まるで、
憑き物が落ちたかのように、
それまでの重圧から、
私の体が、
解放される。
私の「眼」が、
再び、
研ぎ澄まされた。
相手のエースの動きが、
さらに、
ゆっくりと、
見える。
彼女が、
ボールを、
どこに動かすか。
どこに「すき」が生まれるか。
その全てが、
完璧に、
予測できる。
私は、
残された全ての力を振り絞り、
コートを駆けた。
相手のエースを、
完璧に抑え込むディフェンス。
彼女のパスコースを、
完全に読み切り、
ボールを奪う。
そのまま、
一人で、
速攻に走り出す。
相手ディフェンスが、
慌てて、
私を追いかけるけれど、
私のスピードには、
もう、
追いつけない。
軽々と、
レイアップシュートを決め、
ネットが、
フワリと揺れた。
それは、
まさに、
「覚醒」だった。
「ナイス、主将!」
「美咲、すげえ!」
ベンチから、
大きな声が飛んでくる。
私のプレイは、
以前よりも、
確実に、
精度と、
先を読む力が増していた。
チームメイトの瞳が、
希望に輝く。
試合は、
最後のブザーが鳴り響くまで、
激しい攻防が続いた。
私たちも、
最後まで、
諦めなかった。
点差は、
わずか。
そして、
電光掲示板に、
表示されたのは、
私たちのチームの勝利を示す、
数字だった。
歓声が、
体育館いっぱいに、
こだまする。
チームメイトと、
抱き合い、
喜びを分かち合う。
泣いている子もいた。
私もまた、
熱いものが、
頬を伝うのを感じた。
私たちは、
インターハイの全国大会への切符を、
掴み取った。
全国の舞台に立てる。
その喜びの中で、
私は、
再び、
観客席へと、
目を向けた。
彼の姿は、
すでに、
人混みに紛れて、
見つけることはできなかった。
でも、
私の胸の中には、
彼への、
感謝と、
そして、
この喜びを、
彼と、
分かち合いたいという、
強い思いが、
溢れていた。
彼の応援が、
私を、
勝利へ導いてくれたのだ。
この夏は、
まだ終わらない。
私たちのアオハルは、
これからが、
本当の勝負だ。
全国の舞台で、
私たちは、
もっと、
輝いてみせる。
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