第15話:高まる戦場、心の奥底で
インターハイの全国大会をかけた戦いは、
ますます白熱していった。
私たち女子バスケ部は、
順調に勝ち進み、
いよいよ、
準決勝へと駒を進めていた。
全国への切符は、
もう、
手の届くところにある。
体育館に響く歓声は、
試合を重ねるごとに、
大きくなっていった。
私の心臓も、
それに合わせて、
激しく高鳴る。
この熱狂が、
私を、
最高に高揚させる。
主将として、
私は、
チームの先頭に立っていた。
疲労は、
正直、
蓄積されていたけれど、
そんなことを、
表に出すわけにはいかない。
私の一挙手一投足が、
チームの士気を、
左右する。
ディフェンスでは、
相手のエースを、
徹底的にマークした。
彼女の動きは、
私との練習で、
磨かれた「眼」で、
すべて見透かせた。
次に何が来るか。
どこに「すき」が生まれるか。
その全てが、
手に取るように分かった。
(このパスじゃ、もう手遅れだ……)
(予測したフェイントが、来ない……!
この単純さが、逆に読めない……!)
私の脳内で、
そんな分析が、
瞬時に行われる。
まるで、
彼との練習で、
頭の中に、
小さな遠藤くんが、
住み着いたみたいに。
私は、
その予測に従い、
次々と、
相手の攻撃を、
断ち切っていく。
スティール、
ブロック、
リバウンド。
私のプレイは、
コートを支配した。
「美咲、ナイス!」
「主将、最高!」
チームメイトの声が、
私をさらに、
奮い立たせる。
その声が、
私の疲労を、
一時的に、
忘れさせてくれた。
試合の合間。
私は、
ベンチで、
呼吸を整えていた。
隣では、
チームメイトが、
タオルで汗を拭き、
水を飲んでいる。
みんなの顔には、
疲労と、
興奮が、
入り混じっていた。
「ねぇ、美咲。
あんたってさ、
本当にバスケの申し子だよね。」
親友の、
副主将である佐藤あかりが、
私に話しかけてきた。
彼女の言葉に、
私は、
苦笑いを浮かべる。
「何言ってんのよ、あかり。
そんなわけないでしょ。」
「だってさ、
あんなに背が高いの、
普通だったら、
もっとこう、
戸惑うじゃん?
なのに、
あんたは、
堂々とコートに立って、
誰よりも輝いてる。
マジで、かっこいいよ。」
あかりの言葉は、
私にとって、
複雑な響きを持っていた。
背が高いこと。
それは、
確かに、
私のコンプレックスだった。
バスケが、
唯一、
そのコンプレックスを、
「強み」に変えてくれる場所。
そのことは、
分かっている。
でも、
最近、
遠藤くんとの練習を重ねて、
そのコンプレックスが、
再び、
私の心の奥底で、
顔を出すようになっていた。
彼の、
「小さいほうが好き」という言葉。
そして、
「胸が……!」と、
言いたげだった、
あの焦った表情。
(結局、男の子って、
ああいうのが好きなんだよね)
そんな思いが、
頭をよぎる。
私のような、
高身長で、
バスケばかりしている女は、
きっと、
恋愛対象には、
なりにくいのだろう。
特に、
遠藤くんみたいな、
可愛い系の男の子にとっては。
それは、
バスケのコートでは、
感じることのない、
私の、
ひそかな劣等感だった。
バスケをしていれば、
私のこの体は、
最高の武器。
だけど、
コートの外に出れば、
それは、
ただの「デカい女」だ。
「……まぁね。
バスケしてる時が、
一番、自分らしくいられるから。」
私は、
曖昧に答えた。
あかりには、
この複雑な気持ちは、
きっと分からないだろう。
打ち上げの時に、
田中くんから誘われたことも、
その気持ちに、
拍車をかけていた。
あんなに素敵で、
完璧な彼からの誘いを、
なぜか、
断ってしまった自分。
(私、何をやってるんだろう)
自分の感情が、
自分でも分からない。
遠藤くんへの、
「好き」という感情は、
確かにある。
でも、
その「好き」は、
彼のバスケへの尊敬なのか、
それとも、
一人の男性への恋なのか。
その境界線が、
曖昧で、
私を、
戸惑わせていた。
そんな心の揺らぎを抱えながらも、
私は、
コートに立てば、
主将として、
完璧なプレイを続けた。
それが、
私の、
バスケへの、
そして、
チームへの、
責任だった。
私たち女子バスケ部は、
ついに、
準決勝を突破した。
明日は、
いよいよ決勝戦。
勝てば、
全国への切符を掴む。
試合後、
ロッカールームで、
チームメイトと、
抱き合い、
喜びを分かち合う。
みんなの、
汗と涙が、
私を温める。
「美咲、明日も頼むよ!」
「絶対勝つぞ、主将!」
みんなの期待が、
私の胸に、
じんわりと、
重く、
そして、
温かく、
響いた。
(明日、勝つんだ。
全国への切符を、
掴むんだ。)
その決意を、
胸に刻む。
この勝利を、
誰よりも、
遠藤くんと、
分かち合いたい。
彼の前で、
最高の私でありたい。
この気持ちが、
私の心を、
強く、
強く支えていた。
この夏は、
まだ終わらない。
私たちのアオハルは、
これからが、
本当の勝負だ。
勝利の女神は、
どちらに微笑むのだろうか。
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