第10話:高まる鼓動、予選開始

インターハイ予選。

その言葉が、

胸の中で、

高まる鼓動のように響く。

もう、

遠藤くんへの感情に、

「好き」という、

はっきりとした名前をつけてしまった。

そのせいだろうか。

彼の存在が、

私の心を、

より強く、

温かく、

そして、

少しだけ、

切なくさせる。


体育館の入り口には、

大きな大会の横断幕が掲げられている。

「目指せ、全国制覇!」

その文字が、

私たち選手たちの、

高ぶる気持ちを、

代弁しているようだった。


会場には、

すでに、

多くの観客が詰めかけている。

ざわめきと、

熱気が、

肌に直接伝わってくる。

独特の緊張感が、

体育館全体を、

包み込んでいた。


「よし、みんな!

気合い入れていくぞ!」


ロッカールームで、

私は、

チームメイトに声をかけた。

私の声は、

いつになく、

力強く響いた。

この緊張感の中で、

主将として、

私がブレてはいけない。


女子バスケ部は、

昨年、

あと一歩のところで、

全国大会出場を逃した。

その悔しさが、

私たちを、

ここまで、

突き動かしてきた。

今年こそは、

必ず、

全国の舞台に立つ。

その決意は、

誰よりも、

私が強く抱いていた。


コートに足を踏み入れると、

まばゆい照明が、

私たちを照らす。

観客席から、

大きな拍手と声援が飛んでくる。

その全てが、

私の心を、

高揚させる。


試合開始のブザーが鳴り響く。

女子バスケ部の、

インターハイ予選が、

いよいよ始まった。


最初の試合は、

比較的、

実力差のある相手だった。

私たちは、

序盤から、

自分たちのペースで、

試合を進める。


私の役割は、

センターとして、

ゴール下を支配すること。

リバウンドを取り、

得点源となる。

そして、

ディフェンスでは、

相手の攻撃の芽を、

徹底的に摘む。


「ナイス、美咲!」

「リバウンド、美咲!」


チームメイトの声が、

私を鼓舞する。

私は、

その声に応えるように、

コートを縦横無尽に駆け巡った。


相手の攻撃。

エースの選手が、

私に向かって、

ドリブルを仕掛けてくる。

彼女の動きは、

素早くて、

厄介だ。

でも、

私の目には、

その動きが、

まるでスローモーションのように、

映っていた。


(遅い……)


私は、

彼女の次の動きを、

完全に読み切っていた。

右に切り返すフェイント、

からの、

レイアップシュート。

私は、

そのフェイントに、

微動だにせず、

彼女のシュートコースに、

体を滑り込ませる。


「(ここで、フェイントが来るはず……!)」

「(……え? 来ない……!?)」


彼女は、

私の予測を裏切り、

あえてシンプルな動きで、

突破を図ろうとした。

だが、

その一瞬の迷いと、

私が、

彼女の「すき」を見抜く、

研ぎ澄まされた眼は、

すでに、

彼女の動きの先を読んでいた。


私は、

そのドリブルを、

完璧なタイミングで、

スティールする。

ボールは、

私の掌に、

吸い付くように収まった。


「よしっ!」


そのまま、

私は、

速攻に走り出す。

相手ディフェンスが、

慌てて、

私を追いかけるけれど、

私のスピードには、

追いつけない。

そのまま、

軽々と、

レイアップシュートを決め、

ネットが、

フワリと揺れた。


「ナイス、主将!」

「すげえ!」


ベンチから、

大きな声が飛んでくる。

私のプレイは、

以前よりも、

確実に、

精度と、

先を読む力が増していた。


(この動き……)


プレイを終え、

自陣に戻る途中、

私の頭の中に、

遠藤くんの顔が、

ふと、

浮かんだ。

彼との、

公園での練習。

あの、

小刻みなステップと、

予測不能なドリブル。

あれが、

私に、

この「眼」を、

授けてくれたのだ。

無意識のうちに、

私のバスケは、

彼との練習で、

レベルアップしていた。


女子バスケ部は、

順調に勝ち進んだ。

私たちは、

チームとして、

一つになっていることを、

実感した。

主将として、

チームを引っ張る喜びを、

改めて噛み締める。


そして、

男子バスケ部の予選も、

いよいよ始まった。

私たちの試合が終わった後、

私は、

体育館の片隅で、

彼の試合を、

見守っていた。


遠藤くんは、

スタメンではなかったけれど、

途中出場で、

コートに立った。

彼の小さな体が、

長身の相手選手たちの中にいると、

埋もれてしまいそうに見える。

でも、

一度ボールを持てば、

彼は、

別人のように、

まぶしく輝いた。


「(すごい……!)」


彼の、

小刻みなステップから繰り出される、

予測不能なドリブルが、

相手ディフェンスを、

次々と翻弄していく。

あの、

私との練習で、

磨かれた動きだ。


そして、

相手が、

彼にマークを集中すると、

彼は、

冷静に、

フリーになった味方へ、

正確なパスを出す。

味方が、

楽々とシュートを決める。


あの小さな体で、

ここまでチームを動かす彼のバスケは、

本当に賢かった。

私は、

心の中で、

感嘆した。

彼は、

ただ点を取るだけでなく、

チーム全体の攻撃を、

活性化させる、

キープレイヤーになっていた。

彼のバスケIQは、

年齢をはるかに超えている。


彼のチームは、

強豪相手に、

苦戦しながらも、

粘り強く戦っていた。

遠藤くんの活躍が、

チームを支えているのが分かった。


インターハイの熱気が、

私たちの心を、

包み込んでいく。

それぞれの場所で、

勝利を目指す。


この夏は、

きっと、

私たちのアオハルを、

さらに熱く、

そして、

鮮やかに彩ってくれるだろう。

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