お多賀捕物控え
皐月風
第1話半妖
お多賀は、今日も寝転んで、黄表紙やらを、よんでは、菓子つまみ、へらへら、わらってる。
なんと、これが、御上から、十手預かる、親分とは、思えない。
年増女の気楽さか、髪はくせっけ、そのまんま、ひとつに、しばって、うしろにだらり、なりときたら、ももひきに、着流し、男まだしも、女、そこへとびこんでのが、子分の、三知(みち)こう!
「姐さん、そろそろ、見回りしねぇと、また、真山様に、どなられますぜぇ」
「何が、姐さんだ!親分と言え!
あちぃ、昼間っから、嫌だね、あちらさまも、へばってるさあ、それに、外回りは、おめぇの役目だろうが、行った、行った!」
(まったく、いつも、こうだ!しりに根っこが、はえちまっても、しらねぇからな、ふんっ!)
仕方なく、外まわりに、行く。
この三智と言われる若者、実は、長屋のおばばの孫と、世間様では、通っているものの、今から16年前の事…………………
その日、何故か、いつになく、早朝に、目覚めた、お多賀は、早起きは、三文の徳とばかりに、
少し冷えた外気に、ブルっと体を、震わすと外回りに、出かけた。すると、稲荷神社の前を、通りかかると、なんと、どこからか幼子の鳴き声が、聞こえる。
(空耳、空耳、なーんも、きこえてねぇさ)
そう、思っても、悲しげな声は、途切れず、仕方なく、神社の鎮守の森に、足を踏み入れた。
声のする方へ近づくと、白い衣を着た幼い子が、うずくまるようにして、泣いている
(捨て子かぁ、何が早起きは、三文の徳だよ!災いの種引き寄せてんじゃないか、日頃の行いか?大きなお世話さ、真っ当にいきてんだ!ほっとけねぇしなぁ)
「おい、坊主!おっかぁは、どうした?」
顔を上げて、振り向いた幼子をみて、お多賀は、驚いた。何を言ってるのか、分からないくらい、幼いのは、まだしも、耳が、生えてる、しかも、まん丸、まなこは、赤く発行してる!
(まずい!こりゃ半妖じゃないか?ええーっ!)
思った時には、既に、遅し、幼子は、ヒシと、足にしがみついていた。
これが、三智(みち)との、出会いだった。早起きは、三文の得、ならずして、稲荷神社の導きか?
まあ、お多賀は、嫁入り前、まだ、未来は、漠然としていて、子育て出来るはずもなく…………
長屋の婆さんの孫として、育てて貰うことにした。なんせ、この婆さんは、普通の人でなく、表向きは、か弱き年寄りを演じているが、何を隠そう、天下一の占い師なのだ!武家も隠れて、占いを願う程の、眼力と法力を持つ。お多賀の母は、妖も、見える邪眼で、あったが、体が弱く、婆さんに、お多賀の行く末を託して、亡くなったのだ、婆さんの力を持ってしても、寿命とは、かくならんものである。それゆえに、お多賀には、全て打ち明け、心の準備をさせたのだが、二日ふた晩、お多賀は飯も食わずに泣き続けた。
葬祭の一切は、大家が取りしきりつつがなく、行われた。
ただ一人、残された、お多賀を、ずっと、背を撫でて、抱きとめていたのが、この婆さんのみ、まあ、可哀想だと、甘やかしすぎたのもある。
つまり、世間さまの一般の娘のごとく、針仕事、新内、川柳、三味線、何を習わせても身につかず、挙句は、婆さんから、稽古代を、せしめると、芝居や、露店屋をめぐり歩く、ほうとう娘が出来上がった。
しかし、何故か、人受けがいい、1度長屋を出たら、夜まで戻らない、あっちで喋り、こっちで喋り、わざわざ、座敷に呼んで、面白おかしく、喋り倒す。
お多賀がいるだけで、そこだけ、陽だまりのような、心地良さが味わえると会って、フラフラ遊び歩く始末である。
「いいかい、いい若い娘が、化粧もせず、男のように、着流しで、毎日フラフラと、婿取りさせようにも、ならないじゃないか?」
「また、説教かい?世の中、くさくさした話しか、ないんだから、一時楽しい話しで、盛り上がりゃあ、寿命も、のびるって。」
「何か、なりたいものは無いのかい?」
「手習いの、師匠とか、うちの三智こうも、あんたのおかげで、文字の覚えも、はやかったしねぇ」
「そうだ、三智こうのやつ、どうしてる?」
「また、店を追い出されてさぁ、夜中出歩いて、帰らなかったりするからねぇ」
「やっぱ、あいつ、つきもん払いとか、やってんのかなぁ、おもしろそうだなぁ」
「全く、真面目に、お天道様に、申し訳ないと、思いな!」
そんなこんなで、いつの間にか、三智こうと二人で、夜回りに、出るようになった。
もちろん、霊符は、婆さん直伝!
夜出る悪さする低級な妖なら、二人で組んで、霊符で弾き飛ばすなんてのは、お手の物だった
そんな、ある夜
「どうたい、三智こう、気がなんだか、澱んでは、しねぇか?」
「ええ、姐さん、あの四つ辻あたりですかねぇ、赤眼で、映るかい妖が?」
「まだ、得体のしれねぇものとかしか、実は婆さんに、赤眼に、なれば、向こうさんも、気づくから、気をつけろと言われまして」
「なぁーに、封印されてないなら、合図したら、相手の姿、映し出してくれよ」
「よう、ござんすよ、姐さん」
なんせ、真っ暗な中、足元を照らす提灯と、月明かりじゃ、妖の正体つかむ、なんざ、至難の業、三智こうの、赤眼が、発光し、人在らざるものの正体を浮き上がらせ、他人には、見えなくとも、お多賀には、ハッキリ見える。
とはいえ、お多賀は、人の子、三智こうも、半妖だが、その分、妖力が欠ける。
気をつけないと、いけないのは、桁違いの化け物だ。婆さんの護符とて、効力の程は、分からない。
要するに君子危うきに、近寄らず である。
まだまだ、駆け出しの二人なのだ。
お多賀捕物控え 皐月風 @sathukihu-
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