潮の猫
青馬 達未
第1話
潮の香が広がる夏の始まり。 海沿いのこの町では、「潮が引く日には、子どもがいなくなる。」
という不思議な噂がある。
子どもたちは、日中は普通に遊んでいたのに、日が落ちる頃にはふっと姿が消える。
共通点が1つ。どの子も、いなくなる前日に「白い猫を見た」と言っていた。
――そんな話を転校前に聞いていた。
けれどその夏、彼女自身が“白い猫”に出会う。
海辺の防波堤、夕暮れ時。
一匹の白猫がこちらを見ていた。
「……おいで」
そう呼びかけると、猫はくるりと振り返り、何かを誘うように歩き出した。
そして、そのまま海の方へ、消えていく。波にさらわれるように、すっと消えていく。
その夜夢を見た。
深い海の底で、子どもたちが無言で並んでいる。全員、目を閉じ、口元だけがわずかに笑っている。
その足元には、白猫が静かに座っていた。
翌朝、近所の子どもがいなくなった。
最後に目撃されたのは、海の近くにある小さな公園。
大人たちは「またか……」と顔を曇らせる。
だが、誰も白猫の話には触れない。まるで「その話はしてはいけない」とでもいうように。
「ねぇ、知ってる? この町では昔、“潮の猫”って呼ばれてたんだって」
学校の同級生の子が教えてくれた。
「迷子になった子を連れていく猫。海の底に、子どもだけの国を作ってるって……」
私の背中に、ぞわりと寒気が走る。あれは“迷子を導く猫”だったのか?
それとも、帰れない場所へ誘う存在だったのか?
数日後、浜辺にいなくなった子の靴だけが見つかった。中には、小さな貝殻と、白い猫の毛がひとつ。
――私は、もう一度あの猫に会いたいと思った。
理由は、自分でも分からなかった。ただ、海の方から呼ばれている気がした。
そして、次の潮引きの日。
私もまた、白猫のあとを追って……。
翌日。「また子どもがいなくなった」
と、町は騒然としていた。
潮の猫 青馬 達未 @TatsuB
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