第46話 お祭りの始まり(2)
「まず、基本方針。受け手に回ったらジリ貧なのでこちらから引っ掻き回します」
守る手が足りないなら、こちらから攻めて主導権をとり続けるしかない。こちらが動く、向こうが対応する、この形がほしい。
「わたし達と敵対勢力とでは表社会における権力差がありすぎて交渉が成立しないので、その場その場の細かい状況で相手を揺さぶり続けます。問題を小さくその場限りのものにするの。具体的には、まず、呪術師探しね」
わたし達はシャオクの正気を取り戻したい。そのために呪術師を探す必要がある。その話に立ち戻る。
それ以外は考えてもしょうがないとして、一端忘れる。
「で、考えたのだけど、腕のいい呪術師を紹介してくれる人を募集します。先着順。うまくいったら何かおいしい報酬を出します。この方向で人を釣ります」
「報酬の内容次第では大騒ぎになりそうですね」
ミシュアが要点を突く。そう、この話は報酬が魅力的かどうかにかかっている。
充分に魅力的なら敵対勢力を割ることができるし、それは大騒ぎという名の混乱になり、わたし達の負担は軽くなる。
是非、彼らが競争する魅力的な餌、もとい商品を提示したい。
「その報酬には心当たりがあるの?」
「魔法使いが何でも一つあなたの願いを叶えます、とかできたら楽だったのだけれど」
ユスラの指摘に、わたしも頭を悩ませていると答える。
「そんなうさんくさい話、誰も信じないっての」
「そう? 管理部族が迷宮封印に頼み込む程度の信憑性があると言いふらせば一発じゃない?」
「いや、それ、あなたの推測じゃない」
「でも、信じそうになるでしょう?」
うわぁという顔をされた。
わたしをなんだと思っているのか。これでも表社会ではアルリゴの三大商会の一つを取り仕切っているのだけど。
人の求めるところと手持ちの商材をすりあわせるなんて、アルリゴ商人の基礎の基礎だ。
「まあアカリはそんな願い引き受けないから駄目だけどね。別のネタを探しましょう」
ここがアルリゴなら最新の船一隻拵えたり大金を用意したりも簡単にできるのに。どうしよう?
「ハイダラはどうですか? ここに暮らす人々が欲しがるものに心当たり、ありませんか」
ミシュアが話を振る。ハイダラはわずかに考え込んだ。
「みんながよく欲しがるのは、お金、土地、刺激のどれかだよ」
「ろくでなしじゃない」
「そうらしいね」
うへぇとユスラは嫌そうな顔。一方でわたしとミシュアとコーレは考え込む。
「お金って、大金ですか? それとも日々をしのぐ分が欲しいとかですか? どんな使い道を考えてます?」
まず聞いたのはコーレだった。ハイダラは考えながら、たどたどしく答える。
「そんなに考えてる人、いないよ。今から食べる分が欲しい。飲む分が欲しい。道具を買いたい。宿に泊まりたい。女を買いたい。情報が買いたい。とにかく、何でも」
「……じゃあ何でも買えるだけのお金があったとして、みんなが買いたがるものは、何かありますか?」
「土地、住む場所。ザルカバーニは、狭くて、安全じゃないから。みんな、拠点が欲しいんだ」
「なるほど、それで……」
「賭け事はありますか? お金が求められている地下街なら鉄板だと思うのですが」
次に聞いたのはミシュアだ。これにはハイダラはしばらく考え込んだ。
「ある、よ。そういう宿がある」
「カードですか?」
「そうだね。もっと人が集まるところだと、名簿とか」
「名簿?」
「常連がいつ死ぬか賭けるんだ」
「それは知ってるわ。海賊の酒場でもよくあったもの」
レート大荒れの三大トピックが、魔獣、加護無し、それとわたしだった。今は部下の元海賊ルカは、わたしと会って生きて帰ったから大分儲けたそうだ。
しかし何となく雰囲気がわかってきた。ここは陰気な海賊のたまり場みたいな街だ。
「じゃあ刺激というのは?」
最後にわたしが聞いてみると、ハイダラは危険な仕事のことだと言っていくつか例を挙げた。そこは一獲千金の夢を見る海賊とはちょっと違って、とにかく割の悪そうな危険な仕事が多かった。
ハイダラがそういう趣味な可能性も否めないけど。
「ちょっと見えてきたわね」
「そうでしょうか? どちらにせよわたし達にはそんなにいい報酬は出せない気がします。リスクはいっぱいありますけど……」
「そちらを前面に出すなら、今度は大勢を巻き込むのは難しいでしょう。要するに功名心ですから、どうしても人を絞ってしまう」
コーレとミシュアは悩み出してしまった。
任せてほしい。わたしに考えがある。
そんなわたしを見て、指摘したのはユスラだった。
「なんか不安になる顔してるけど、何企んでるの?」
「あ、それ、エスフェルドみたい」
「あのじいさまも苦労してんのね……」
「ともかく、報酬に当てはあります。カシャー、これをちょっと調べてちょうだい」
「はぁ……これは、なにかしら」
わたしが影の海から取り出したのは真珠のような輝きを持つ大きな宝珠だ。両手で一抱える程度の大きさだが、あまり重くはなく、カシャーも不思議そうに持ち上げている。
彼女は占い道具の水晶玉を扱うように宝珠を撫でて、目をつむって考え込んだり、何か訝しむように顔を近づけたりする。
「えっ」
そして突然そう言った。ギョッと目を見開いて、わたしを見る。
「な、何でこんなものを……」
「壊したものをしまっていたの。直せないかなと思って手を入れてみたんだけど、どう?」
「……本当に、これを誰かもわからない人に譲る気なの!?」
「シャオクを回復させるのと交換条件なら、まあ、いいんじゃないかしら。もう一つくらい手には入るかもしれないし」
カシャーは恐れを抱いた顔で宝珠を返してきた。
それを見ていたラティフが首をかしげて聞いた。
「何かの魔獣の核に見えるが、なんだそれ」
「正解。これはサルアケッタの核宝珠よ」
「はぁ!?」
いい報酬になりそうでしょう? とわたしは笑った。
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