第45話 お祭りの始まり(1)
とりあえずキャラバンに戻った。
テントに人を集めて、ジャナーとの交渉や得られた情報、それとアカリに関するわたしの予測を共有する。
ミシュアは「やっぱり面倒なことになった」とこぼし、カシャーは警戒心でいっぱいの顔でわたしを見ている。コーレは「これからどうするんですか」と一歩引いている。段々みんな身構えるようになってきていて、良い。これならもう少しテンポを速くしてもいいかも。
ともあれ今回、話の続きを促してきたのは、キャラバンの警護担当を担うラティフだった。
「で、これからどうするんだよ」
「わたしたちがすることは三つ。大事なことから順番に言うけど、まず、シャオク達の警護を万全にすること」
どうせジャナーがもう手を回してわたし達に注目を集めるべく噂話を流しているだろう。後手に回りすぎないよう、急がないといけない。
……今にして思えば、少し前にミシュアが言っていた、わたしたちにまつわる噂がザルカバーニに流れていたというのも、ジャナーの仕業かもしれない。
まあそれはともかく。
「シャオクを確保した勢力が他の勢力に対して交渉権を持つ、というのが今の状況。だからシャオクの護衛は最優先。次に並行してわたし達の安全確保。シャオクを確保するための交渉材料として狙われるでしょうからね」
「……どう考えても人手が足りないぞ」
ラティフがしかめ面で指摘した。
わたしも頷く。
「本当ならアカリがいるからもう少し気を抜けたのにね。でも予想通り迷宮封印にかり出されてるなら、いつ戻ってくるかはわからないし、ないものとして考えるしかないわね。アカリのことだからわたし達も知らない手をすでにいくつか打ってるでしょうけど、知らないものは当てにもできない。何か考えないといけないわね」
差し当たってはわたしがなんとかするしかないだろう。幸い常に暗闇に満ちている地下都市なら、地上より眷属を使いやすい。すでに小さな魚を何匹か影に仕込んでいる。
「それとカシャーの占いは大事な情報源だから、旅の最中と同じ程度の報告が欲しいわ。あなた達がまだわたし達といるつもりなら、だけど」
「……それはどういう意味でしょうか」
「何かあったら逃げるぞ、という顔をしてるわ」
カシャーは表情こそ変えなかったが、体をこわばらせた。たぶん図星。
「その場合は言ってね。別にそれならそれで止めないから」
「いや止めなさいよ。何考えてんの、アンタ」
暇だからと同席していた水呼びユスラに突っ込まれた。
うーん、そこからかぁ。
「わたしは、それがしたいことならすればいいと思うから。それに出て行ったところで、わたしがやりたいこととかみ合わないわけでもないんだし。黙って出て行ってどうなったかわからないとかじゃなければ、怒ったり邪魔したりするようなことではないでしょう?」
「えぇ? アンタだって、カシャー達の事情にクビ突っ込みたがってたじゃない」
「そうね。今もそのつもりよ。あ、呪術師探しも続けるつもり。これが三つ目」
「いや、三つ目、じゃなくて! だからじゃあなんでカシャー達が出て行くのも止めないとか言うのよ?」
「え? だってカシャー達が側にいなくても関わることはできるでしょう?」
呪術師探しがうまくいけばまた向こうから声をかけてくるかもしれない。
なんならこちらから探し出して見つけたけどいる? と声をかけてもいい。
シャオク達がどこにいるかは関係ないのだ。居場所がわからない、見つけるとっかかりがないと問題になるだけで。
「勿論一緒に関わらせてくれるならそれが一番楽しいけど、そうじゃなくても構わないわ。だからカシャー達はやりたいようにやってもいいのよ」
「う、うー。わかるけどわかりにくい……」
わかってくれたならいいか。わたしはユスラを放っておくことにする。
……まあ、アカリの場合はこうもいかないんだけど。
何しろ彼女はどこに飛ぶかわからない綿毛のようなもの。行き先も目的も何もかも胸の内に隠してどこかに行ってしまう。思えばセルイーラに来たときも「わたしはしばらく離れるよ」と言ってどこかに行こうとしていた。
あの時は魔法使い案件だからと言って壁を作ろうとしたが、それがアカリの失策だった。そんな面白そうなことを独り占めなんかさせないと手をつかんで離さなかったから今わたしはここにいる。そういう強引さを発揮していなかったら今頃どこで何をしているか、見当もつかない。
「カシャーもウェフダーや占いの様子を見て決めたいでしょうし、ゆっくり考えていいのよ?」
「……いえ。そもそも、ここを離れるつもりは、今のところありません」
カシャーは少しこわばった顔でそう言った。
大丈夫? 無理してない? まあ本心なんてどうせわからないので本人の言うに任せるしかないのだけど。
「そう? ならその方針で動くわね。じゃあシャオクの防衛を中心としたキャラバンの防衛体制について詰めましょうか」
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