第3話 夜景
都合上帰り道を変えることはよくある。ただどこを通るにしても時間帯が遅くなれば田舎の道は山沿いであれ、海沿いであれ暗い。とはいえ私の使う道は山側の方が暗い。街灯が少ないこともあるが、民家も固まっている場所と全くない場所と極端である。
延々と道沿いに草木が総立ちで、下手をすればその両枝は頭上で仲良くお手々を繋いでいる。田んぼも畑も昔はともあれ今では草ぼうぼう。陽が完全に落ちると場所によっては藪の中にでも迷い込んだ気分。片側一車線の車道を車で走っていても前後ろに一台の車もいない、ましてや対向車すら一台も来ないとなればその一人旅はけっこう怖い。
海沿いはそこそこ民家が連なっていたりするのでどちらかと言えば一人旅でも海沿いの方がマシかもしれない。だからと言って、民家が途切れる場所が無いわけではなく、心細くなる場所はもちろんある。山は鬱蒼とした何かが出てきそうな恐ろしさ。堤防の向こうの真っ暗な海原も、何もなければ吸い込まれそうでそれもまた恐ろしい。
駅や小さな港がある付近は、やはりそこそこ明かりも家もお店もあるので少しだけほっとする。
通常は距離の短い山沿いを帰るが、本日は所用にて海沿いを走る。たまたま交通量のある時間帯だったのだろう。珍しく前後に車が連なっていた。だいたい一定のところまで来たらいつもは減るのだが、今日は違ったらしい。先を行くヘッドライトにテールランプがカーブを曲がった向こうに繋がって見えるのは案外綺麗である。対向車が数珠繋ぎに流れていくのもしかり。だが海沿いの道も、たとえ民家が続いていたとしてもその背後はやはり、山。反対側は海なのだから何もない。何もないから綺麗に見えたのかも知れない、とも思う。
途中に対側の島に渡る橋がかかっている場所があるのだが、それは駅の手前にある。更に手前側から海を挟んだ向こうにその島は見えるが、暗い深淵に浮かぶようなぽつぽつとした可愛らしい灯りがやっぱり綺麗に見える。
橋が近づいてくると後方からがたんがたん、とお決まりの音が聞こえてきた。今日は後方から電車がやってきた。時間帯が少しずれると前方からになる。ただ海に立つ橋脚の側、橋の下を通りすぎる電車を少し離れた場所から眺めるのは絵になって良いな、と思う。真っ暗な海と島と橋、ささやかな灯りと短い電車。時々こんな情景に感動しながら運転するのも悪くない。何もない田舎の片隅にあるささやかな癒しというのか……。ちょっとだけほっとする一瞬の光景。たまにそれへ異国の雰囲気を重ねて想像してみるのも実は楽しい。
ただし!それに浸っていると知らず前の車についていって、曲がり損ねたりするのが私である。
まあ、道は繋がっている。ちょっと遠回りになるだけ。……負け惜しみだけれど。
間抜けな私のとある1コマ 空山迪明 @mizushino
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