第57話 待ち望む者
来るだろうか。名前を知らない瞬間移動能力持ちのお兄ちゃん子は。
カムイは奇襲を防ぐために見通しのいい場所を決戦の場として選んで待っていた。
来てくれるならその方がありがたいけど、来なくても構わない。
残り時間はまだ十分にある。
時間さえかけて探し回れば、誰か見つかるだろう。
それが面倒だから、あの子が来るのを待っているのだけど。
できるだけ早く戦いの決着を付けたいというのもある。とっとと生き返りを確定させてしまいたい。
スズシロさんに感謝しないと。
彼女が何も言い残してくれなかったら、能力が持ち帰れる可能性に気づけなかった。
当初考えていたとおり、残り5人になっても、生き返りを拒否していたところだった。
最初は生きている時には決して体験できないであろうゲームを楽しめるだけ楽しめたらどこかで敗退しても構わないと思っていた。
最終的な勝ち残りより、できるだけ多くの退場者を自分の手で出すことを目標としていた。
最低5人。
理想は10人。
なので、マキさんたちにはできるだけ頼らず、積極的に動いた。
ヒヤリとすることもあったけど、それも楽しかった。どう動くかを考えたり、情報を集め、能力を考察したり、対策を練るのも。
生き返りなんて、ゲームで勝った人たちへのちょっとしたご褒美、レクリエーションの景品くらいにしか思っていなかった。
死ぬなんて別に大したことじゃなかったんだし。死ぬ前に文字通り死ぬほどの苦痛を味わうだけの話だった。
生き返りたい理由も特になかった。
どっちでもいいと言えば、どっちでもよかった。
だから、勝ち残った上で生き返りを拒否するのも面白いかもと閃いた。
空からの声は残り5人になった時点で、生き返りを望む人は、すぐに生き返らせると言っていた。生き返りを望まないなら、生き返らなくてもいいということだ。
勝ち残った者の生き返りは強制ではない。
とは言っても空からの声は、実際に戦いに参加して5人まで残った者たちの中に、生き返りを望まない者がいることを想定していないかもしれない。
せっかく獲得した生き返りの権利を放棄すれば、この戦いの開催者ーー神様なのか何なのかわからないけど、超越的な存在をびっくりさせられるんじゃないかと着想した。
ちょっとした悪戯心だ。
人知を超えた存在をびっくりさせられるかもしれないというだけでも生き返りを拒否する価値はある。
いっそ誰1人生き返らせないことはできないかな、なんてことまで考えた。
残り6人になった段階で自分以外の5人をまとめて攻撃、同時に退場させて、カムイも生還を拒否すれば、誰1人生き返らないことになる。
その結末なら、生き返りをただ拒否する以上に開催者を驚かせられる可能性は高い。
時間切れならともかく、同時退場と生き返り拒否による生還者ゼロというのは開催者の思惑から大きく外れた、予想外の結末なんじゃないか。
でも、それは結局、無理だという結論になった。
四本までしか生やせない【トゲトゲ】で5人まとめてというのは難しい。
一応、機会があった時に、2人まとめて即死級の攻撃をする実験はしてみけど、脱落判定にわずかだが時間差は生じてしまうようだったし。致命傷を負って光になりかけても、消える前なら生き返ることができるのではないか。
爆弾ならもしかしたらいけたかもしれないけど、先に使ってしまった。どっちみち5人いっぺんに吹っ飛ばせる状況を作るのも難しい。
別に誰も生還できない終局にこだわっちゃいなかった。
自分だけでも生還を拒否してみればいい。
もっとも、開催者はカムイたちがどんな結末を迎えるかなんて、さしたる関心を持っていないかもしれないのだけど。
結局、この戦いなんて、小説における誤植の訂正くらいの意味しかないんじゃないだろうか。
死んだのが25人でも20人でも、誰であっても、物語の大筋には対して影響しない。ストーリー的には20人くらいの中学生が死亡する事故が起きればいいだけ。修正は必須ではない。
そうだったら、開催者は25人の戦いの結末に大して興味がなくてもおかしくないだろう。
カムイ自身が、自分がどんな末路を辿ろうか気にしていなかったように。
でも、能力を持ったまま生き返られるのなら、話は違う。
生き返りたい。
生き返ったら能力は失われるかもしれないし、生き返り自体が嘘ということもある。
結局、残り5人にならないと事の真偽は確かめられない。
生き返りが嘘なら仕方がない。
生き返りは本当で、生き返った後に能力を使える仮説が間違っていても、それならここでの記憶を失うのも本当だろうし、期待外れでがっかりすることもない。
生き返った自分は何も知らず、何も変わらず、事故以前と同じ生活に戻るだけだ。
思い返してみると、早々に自分の能力を試せたのは良かった。
いきなり戦闘ではなく、無防備に背を向けている相手に使えたのはいい経験になった。
フジサキさんはよく頑張ってくれた。惜しみなく自分の能力を使って協力してくれた。 彼女には少し申し訳ない気持ちはあるが、自身の身の安全を優先させてもらった。
揉み合っている中、フジサキさんだけを傷つけないようにするのは難しかったし。放っておいたら、マキさんがフジサキさんを振り払って攻撃してくるかもしれなかったし。いやまあ、振り払ってくれれば、マキさんだけを狙いやすくなっていただろうけど。
生き返りを望むようになる前なら、多少のリスクは承知でフジサキさんを傷つけないやり方を選んでもよかったのだけど。まあ、いいか、今更。身を呈してマキさんを止めてくれたことは感謝している。
マキさんは、自分に対して不信感をずっと抱いていたようだけど、この戦いではそれも当然。ルール無用の戦いだし、裏切りも怒るようなことじゃない。
ウシオくんは、異常事態、非常事態での判断力、思考力が高くない自覚を持っていた。 だからこそ人の意見を聞くことを大切にしていた。彼のそんなところを好ましく思う。
それでいて意見や疑問を全然言わないと言うこともなく、彼なりに一生懸命どうすべきか考えていた。
多分、みんなそうだったのだろう。自分なりに一生懸命考えて、行動していた。考えが足りなかったり及ばなかったり外れていたりすることはあっても。
考えるといえば、武器を出現させる能力の女の子。
武器を相手に向けて出すことで、攻撃に転化するのは非凡な発想だ。
カムイが同じ能力を貰っていても、同じ発想には至れなかっただろう。
巨大な薙刀も、六本腕を活用するために彼女が出したアイデアだったのだろうか。
戦いの中心は六本腕の少年だったけど、チームの中心はおそらく彼女だった。
あるいは、彼女こそがこの戦いにおいてもっとも強敵だったのかもしれない。
相性という点で言えば、もっとも最悪なのは物質をすり抜ける能力を持っていた女の子だろうけど。
トゲトゲがすり抜ける上に、背が低く痩せ気味のカムイと違って恵体だった。素手での戦いに持ち込まれたら、敵わなかっただろう。
そんなことを考えながら待っているうちに、人数カウントが7になった。
攻撃を跳ね返す男の子かロープの男の子、どちらかが力尽きたのだろう。
ぞわぞわとする。
あと2人でおしまいだ。
それからまもなく、あの子の姿が見えた。
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