第40話 刃と刃(中編)

 六本腕対二本腕。

 と言っても実際のところ、シドウは足技がメインではあった。

 シドウは巨大な腕の少年のように、ガード一辺倒にはなってくれない。シンキロウに対して反撃してくる。

 ガンガン攻めているのはシンキロウの方だったが、彼が優勢のようには到底見えない。

 シドウは六本の腕による連続攻撃を余裕を持って躱し切っていた。普通の人間の三倍の手数の攻撃を一度も食らわせられない。

 一方でシンキロウは、シドウの攻撃を躱し続けてはいるが、紙一重という感じだ。

 シンキロウも、シドウ相手に自分が有利とまで考えていたわけではあるまい。

 だが、シドウの能力は使い勝手の悪いもの。メリケンサックで武装した六本の腕の自分ならば、十分に渡り合えると予想していたのだろう。

 だがシドウは強かった。想定を超えて。

 シンキロウは六本の腕を駆使して、というほどに使いこなせているようにも見えないが、それでも思いつく限りの攻撃法を試してみているようだ。

 時には六本腕関係なしの蹴りも放っていたが、そのキレの良さはシドウのものと比べるべくもない。

 シンキロウがシドウに一撃入れられるのも時間の問題に思えた。

 ミリはシンキロウが負けた時のことを考え出した。

 シドウがいくら強くても能力は接近戦用のもの。

 こちらにはユメの瞬間移動がある。連続使用は不可だから、逃げきるまでは走るのと併用となる。ミリは足が遅いが、ユメがミリのことを置いて逃げたりしない限りは何とかなるはずだ。

 彼女のことを信頼しなければいけないのは少し悔しいが、彼女は臆病であっても、ミリのことを見捨てて1人で逃げ出すような子ではないだろう。

 コウに関しては、見せてもらう機会がなかったが、バスケ部だけあって足は速いとのこと。格闘能力ならばシドウの方が上でも、足の速さでなら優っているはず。瞬間移動の補助がなくても逃げ切れるはず。

 シドウから逃げ切ったとして、そのあとどうする。

 チームの数が1人減る。 

 運良く、単独行動をしているものと、合流できたらいいが。

 あるいは。

 ミリはコトリと呼ばれていた帽子を被った女の子のことを思い浮かべる。

 彼女の光る球体を放つ遠距離攻撃能力。

 コウの【反射壁】と組み合わせて使えば強いのではないか。

 反射壁で、光る球体を放った本人の方ではなく別方向に飛ばす使い方ができれば。シドウを倒せるかもしれない。

 しかし、彼女がツバサくんと呼んだ少年もいる。セラのことがあるからシンキロウを欠いても、2人は仲間にできない。

 それに一度襲った相手に協力を求めるのも虫がいい話だ。

 そもそも、あの2人がまだ残っているかもわからないのだ。

 現存が不確かな人たちを当てにすることを考えるよりも、ミリは現状分析を始めた。

 シドウは生まれて初めて、いや死んで初めて戦う六本腕の対戦者に慎重になっていると見られた。

 大太刀を相手にしていた時よりも攻撃の苛烈さが欠けている気がする。

 攻撃よりも防御と回避を重視する戦い方を取っている。六本腕の動きを観察するために。

 六本腕の動きに慣れてしまったら。六本の腕による攻撃を見極められてしまったら。一転、攻勢に打って出るのではないか。

 だとしたら、あまり時間がない。

 シンキロウを見捨てて、シドウのことは、ほかの誰かが倒してくれるのを期待する。

 シンキロウを除いて3人になれば、シドウとセラが残っていても、最終的にミリたちも残り5人に入れることもないとは言えない。

 だが、そう都合よく行くものか。

 ここで、シンキロウを失うのはやはり痛い。

 積極的に勝ち残るためには、彼にはここで負けてもらっては困る。

 シンキロウが負けた時の行動を考えるよりも、彼を勝たせるための行動を取るべきだ。

 それに、なんだかんだ言っても彼はチームのために頑張ってくれたのだ。

 一応、チームの仲間として彼を助けてあげたいという気持ちもあった。

 だから。

「ユメさん、私をシンキロウさんのところに連れて行ってもらえますか?」

 ミリはユメにお願いした。

 ユメはミリが何をするつもりなのかわかってくれたようだ。

 彼女も、このままではシンキロウがやられてしまうことは察していたのだろう。

 察した上で、どうしたらいいかわからないでいた。

 今まで指示を出していたシンキロウは、それができる状況ではない。

 それでも何かをしないといけないと考えていたのだろう。

「わかった。行こう」

 ユメの顔は蒼白になったが、彼女は頷いてくれた。

 自分ではわからないが、きっとミリの顔も蒼白と言っていい色になっているのだろう。

 コウは止めた。

「代わりに自分が行く」と。

「ナイフ持って行きますか?」

 そう尋ねると、コウは言葉に詰まった。

 しかし、武器がなくても、こちらから人を殴ることができなくても、シドウの気をひくくらいはできる、反射壁も盾がわりにはなる、そう言って食い下がってきた。

 ミリはあっさりとコウの提案を却下した。

 戦えないコウが行くよりも、戦うシンキロウに武器を届けた方がいい。それがミリの考える最善だった。

 反射壁が防御には使えるとはいえ、コウが攻撃してこないことに気づいたら、後回しにしてシンキロウを倒せばいい。

 それからコウがやられてしまえば、ミリたちも遅かれ早かれやられる。瞬間移動で一旦はシドウからは逃げられるかもしれないが、いずれは誰かに。

 ユメとミリは手を繋ぎ合う。

 シンキロウと瞬間移動する時は、ユメが逃げやすいように肩だった。今回は運ぶべきものをシンキロウに届けた後、2人一緒に逃げる。

 視界が一瞬で変わる。

 目の前にはシドウがいた。目と鼻の先に。

 ミリたちは敵の眼前に出現してしまった。

 近すぎる。

 爪先を刃に変化させる分伸びシドウの蹴りがミリに届く距離だった。

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