第36話 作り渡す者
ミリたちは行動をすぐさま開始できなかった。
理由は、ミリに与えられた能力が事前準備が必要なものだったからだ。
ミリの能力は【金属粘土】
金属粘土という謎の物質を出せる能力。
名称からするとあくまで粘土のようだが、見た目も触った感じも硬い金属の塊でしかない。ミリ以外にとっては。
ミリは他者にとっては金属でしかないその物質を、粘土のように捏ねまわし形を変えることができる。
その特性を利用してできること。したこと。武器の製作。
現在もシンキロウが六つに増えた拳全てに装備しているメリケンサックは、金属粘土でミリが作って渡したものだ。
シンキロウの能力は【六本腕】
腕を六本に増やす能力。
常人よりも多くの武器を持つことを可能にするその能力は、【金属粘土】との親和性は高いと言える。
【金属粘土】との親和性が高いのは、【六本腕】だけではなかった。
ユメの能力は【瞬間移動】
離れた場所に一瞬で移動できる。
ユメが金属粘土で作った刃物を手に瞬間移動で奇襲を仕掛ければ、か弱い彼女でも敵1人くらいなら倒せるかもしれない。
コウの能力は【反射壁】
他者の投げたものや、何かを飛ばして攻撃する類の能力を跳ね返せる。
それ自体は攻撃力を有さない、自分からは攻撃できない能力だが、金属粘土製の武器を持てばその点をカバーできる。
さらにコウは、バスケ部で全国大会出場経験があると言う優れた運動能力の持ち主だった。
身長が低く、したがって手足が短く、それでいて非力で体力がなく運動音痴のミリが自分で制作した武器を振るったとしてもたかが知れている。
だけど、身体面に秀でているコウが武器を持てば、チームの戦力は倍増するかもしれなかった。
それに、去ってしまったセラの透明化能力。
あの能力が武器に対しても効果があるかははっきりしないが。
服や靴は透明になる。
瞬間移動は手に持っているものなら一緒に移動させることができる。
なので多分、手にした武器も透明にできるだろう。
透明人間が刃物を持って襲いかかってくるのは脅威だ。
出せる金属粘土の質量から考えて、脇差くらいの刃物ならば、5人分は作れそうだった。
5人でチームを作っていたとしても全員が武装できる。
ほかの人たちがどんな能力を持っているかは知れなかったが、攻撃的な能力ばかりではないことは自分たちの能力から推測できた。 殺傷能力の高い刃物を全員が持てるのは、大きなアドバンテージになっていたかもしれない。
アドバンテージを得るどころか、チーム人数は原則4人という制約までできてしまっていたが。
それ以前に、ユメもコウも武器を持ちたがらなかった。
ミリ自身もできれば、武装したくはない。
そもそもの話、オチアイユメとハザマコウ、そしてハセガワミリ自身を加えた3人は、強い生還の意思とは裏腹に、他者を傷つける行為を拒んでいた。
ユメとミリは積極的に他人を傷つける真似ができない。したくない。怖い。生理的嫌悪が捨てきれない。
コウは自分からは無理だが、相手が先に攻撃してきた場合なら、何とか反撃はできるかもしれないとのことだ。
これにはシンキロウも呆れていた。
とはいえ、シンキロウは戦いたくない者を、無理に戦わせるつもりはないというスタンスらしい。
だからこそ、セラを行かせたのだとすれば一貫性はある。
かといって、再び彼女たちと巡り会った時、見逃すかどうかは別の話としていた。
積極的に、あるいは全くと言っていいほど戦闘に参加する意思がない者とでもチームを組んでくれるのは、ありがたい話ではあった。
とはいえ、シンキロウは囮でもなんでも、やれることはやってもらうぜと宣告した。
無論、ミリもユメもコウもサポートとして、できるだけのことはやるという姿勢だった。
ただ1人戦いに乗り気のシンキロウに金属粘土で作る武器を集中させる方向で行くことに決まった。
一度作った武器を作り変えることはできるとはいえ、一度行動開始した後に、そんな暇はないものと考えておかねばならない。
作る武器は熟慮するべきだったが、ほかのチームがいつ動き出すかわからない。
武器を作っている時に襲撃されたらたまらない。
悠長にはしていられなかった。作る武器を迅速に決めなくてはならなかった。
コウの【反射壁】の性質から、離れた相手を攻撃できる能力があるのはわかりきっていた。
こちらの攻撃が届かない場所から一方的に攻撃できるのは、それだけで有利である。
ミリの能力で作った武器だと、基本的にその武器のリーチプラス使用者の腕の長さ分しか攻撃が届かない。
手裏剣のような投擲用の武器を作るという手もあるはあった。
シンキロウによれば【六本腕】はあまり投げるのに活かせる構造ではないとのこと。
敵に命中させられるかどうか。
外れた武器を回収できなければ、ミリの金属粘土の一部を失うことになる。相手や後からその場を通りすがった者に拾われて利用されることもありうる。
限られた金属粘土を投擲専用の武器に作るのに使うべきではないと判断した。
攻撃性能という点では、やはり刃物を持ってもらうのが望ましかった。
だが、六本の腕でリーチのある武器を振り回すと、武器同士をぶつけてしまったり、自分の腕を傷つける恐れがあるとのこと。
一ヶ月も練習すれば、自由自在というくらいに六本の腕を操作し、なんの問題もなく複数の武器を同時に使いこなせるようになるかもな、とシンキロウは言ったが、当然ながらそんな時間は用意されていない。
シンキロウは、手に嵌めるメリケンサックを作る案を出した。
リーチのない武器なら、自分の腕を傷つけたり、武器同士をぶつけ合わせてしまう心配がない。
腕が六本あるのを活かしてやるのがタコ殴り。間違ってはいないが、宝の持ち腐れ感はあった。
金属粘土製の刃物を何本も持って、自在に扱えたなら、接近戦では猛威を振るえただろうに。できない以上は仕方がない。
だが、メリケンサックを六つ作っても、金属粘土の大部分が余る。
できることなら使う状況が来ないでほしいが、念のためにミリ自身の護身用のナイフを作るつもりでいたが、それでも余りある。
ミリは六本腕を活かすアイデアを捻り出し、シンキロウとも相談して、切り札とも言えるような武器を製作することにした。
悪戦苦闘しつつ、見栄えは悪いが武器を作り上げた。
メリケンサックをシンキロウに渡し、護身用のナイフと切り札はどこかに消して、ようやくミリたちは次の行動に移れた。
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