第26話 籠る者(後編)
バリケードを築き上げ一息つけたとはいえ、安心しきることはできなかった。
普通なら、重たい瓦礫で出入り口が塞がっていれば侵入は困難になる。
だが、例の爆発のような凄まじい威力を持つ能力があるのだ。
あれも流石に一軒家まるごとという規模ではなかったが、瓦礫を積み上げたバリケードくらいは吹っ飛ばせそうだ。
すでに崩れかけている建物を隠れ場所に選んでいたら崩壊して、生き埋めになる恐れもあっただろう。
とにかく、あまりバリケードの前あたりにはいない方がいい。
破壊力に関わらず、バリケードが意味をなさない能力があってもおかしくない。
だからこそ近づく敵を迎え撃つ準備もした。
バルコニーに運び上げた大小無数の瓦礫は、敵であろう人物たちが近づいて来た時に使う。
落として攻撃するのだ。
重く硬い瓦礫なら、この高さから落とせばそれだけで十分な攻撃力を持つ。
難を言えば、重量物を落とす攻撃方法は、この建物のすぐ近くまで来た相手にしか使えない。敵対的な相手の接近をギリギリまで許してしまうことになる。
投げやすい大きさ重さの石片も用意してはいる。
だが、ケイの投擲力では大した距離は飛ばないだろう。当たるか怪しい。
当たってもどの程度のダメージを与えることができるか。
重さ硬さ、位置エネルギーなどを考えれば、そこそこのダメージは期待していいとは思う。頭に直撃すればかなりの。
だが、果たして当たるだろうか? たまたまならばともかく、狙って当てるのはやはり難しいだろう。
たとえ命中しても軽傷なら、石片を一度投げつけられた時点で、相手も慎重になるか、なんらかの対策を考えてくるだろうし。
大きく重たい瓦礫を落とすのではなく、ある程度の距離投げることができればよかったのだが。
【軽量化】はケイが手で触れている物体を重さをほとんど感じないほどに軽くできるという能力。
重いものを軽くして持ち上げて投げようとしても、手から離れた瞬間、その物体はそれ本来の重量を取り戻す。
すると、どうなるか。
重量物は、ケイの手、指先が完全に離れた時点の位置からほとんど移動することなく、ボトンと落下するのだ。
軽く実験してみた結果だ。
それほど重くない、遠くまでは投げられないが、投げること自体はできる重さの瓦礫でも試してみた。
軽くしている分、本来の重さのまま投げようとする時よりも、腕を思い切り振れる。
ならば、たとえ指から手が離れて重さを取り戻しても、勢いがついた分だけ普通に投げるよりも遠くまで飛ぶのではないかとも考えた。
実際やってみると、軽量化を使って投げても、使わず投げても飛距離に変化らしい変化はなかった。
この結果が物理作用的に正しいのか間違っているのか、ケイには判断がつかない。
そもそも物体が突然その重さを失ったり取り戻したりする現象は普通というか、
本来ありえない現象を起こす非科学な力だから超能力なのだとも言える。
ここが
もとより物理現象とか作用とか法則がどうのこうのという話ではないのかもしれない。
軽量化して投げても、ケイが普通に投げるのと変わらないスピードと飛距離しか出ない仕様になっているだけ。空からの声の主がそうなるように設定しているだけなのかもしれない。
事実として重たいものを軽くして投げても、遠くまでに飛んでいくことはない。
ゆえに重量物をぶん投げて攻撃するというような使い方はできない。
ババの【巨大腕】ならば、重量物をより速く、遠くまで投げられたはずなのだ。ババは、腕が大きくなるだけではなくて、その大きさに見合ったパワーが発揮できると言っていたし。
ババがいれば、この隠れ家の守りがより強固なものになっていたはずなのに。
残念だ。
ババがいればーー。
そう思ってから、ケイの頭に次々と閃くものがあった。
ババだけではなくて、クオンジもいたら?
クオンジの【熱線】なら、この屋上から斜め下にいる敵を攻撃できる。
しかも投擲と違って、熱線はまっすぐに進む。それも目から出るから、視線を向けた方に飛ぶ。
標的を見て撃てば、標的に向かって一直線に飛んでいくのだ。
命中精度がきわめて高い。
タメが必要な上、目が赤く光るから、何か攻撃がくると察して避けられてしまう可能性はあるが。
だが、カシバがいたら? 離れ離れになる前にそういう話を少しした。
カシバの【金縛り】はわずかな時間とはいえ、相手の動きを止められる。
カシバが動きを止めて、メイサが狙い撃つ。改めて考えると強力なコンビネーションだ。
イワカベは?
イワカベの【すり抜け】は?
この状況であいつがいたら、あいつの能力は何の役に立つ?
バリケードを作る行為は、敵の侵入を困難にする代わりに自分たちの出入りも困難にしてしまう。
しかし、イワカベならば。
イワカベのすり抜けならば、バリケードを取り払わずに出入り口を塞いだままで出入り自由だ。
偵察として外に出てもらえる。
敵に発見されても逃げ込める。
流石に嫌がったかもしれないが、イワカベに囮になってもらって、敵をここまでおびき寄せる作戦だって取れたはずだ。
なんてことだ。
5人全員が揃っていたら、ここを鉄壁の要塞にできたかもしれなかった。
というより最初から、お互い能力を教えあった時点で、籠城戦を選ぶべきだったのだ。
自分たち5人の能力の組み合わせは、会戦よりも、籠城戦でこそ真価を発揮できたのだ。
別れ別れの状況で考えついたところでどうしようもなかった。
仲間たちの誰が残っていてくれたら。
この辺りを通りかかってくれたら。
1人でもいいから、この隠れ家に加わってくれたら。
鉄壁の要塞とは言わなくても、ケイ1人の今よりは守りが硬くなる。
イワカベ以外だと、ここに入れるにはバリケードを一旦取り除く必要があるが、それは仕方がない。
できれば、バリケードをどかす必要がなく、偵察もできるイワカベがまず加わってくれればいいのだが。
彼女もほかの3人も残っているのか定かではない。
ただじっとしているのは難しかった。
いつ見つかるかと、ビクビクしているのは神経をすり減らす。
意味もなく立ったり座ったり、建物内部をウロウロしたりした。
時々、外の様子をバルコニーから窺う。残り人数を確認するためと、仲間の誰かがこのあたりに来ていないかと期待して。
あるいは友好的な人物。仲間を失って新たな仲間を探している者たち。そんな連中が都合よく来てくれたら。
だけど、友好的な人物が来たとしても仲間になるというのもどうなのか。
逸れた仲間たちは無事でいるかもしれない。全員ではなくても、1人か2人くらいは。
仲間が無事な可能性が残っているうちに、自分可愛さにほかのチームに加わるのは、醜い裏切り行為なのではないか?
新しい仲間を作るにしても、もっと先の話。脱落者がもっと出てからにするべきではないか。
せめて残り人数が15人になったら。総脱落者数20人のうちの半数になる10人が脱落したら、仲間たちの残存は絶望的とみてもいいのではないか?
チャンスがあったらほかのチームに加えてもらってもいいんじゃないか。
チームとは言えなくても、1人2人で行動している者がこの辺りに来たら。
そんなことを立て籠った当初は考えていた。
現在残り16人。
残り人数以外に状況を積極的に知る手段がないのは辛かった。
空からの声が誰が残っているのか教えてくれたらいいのにと思わないでもなかった。
誰も来ないなら、それはそれでいいのではないかとも。
隠れて最後まで残れるなら、それが一番じゃないか。仲間か仲間になってくれるものが来なくても。
このまま息を潜めていれば。
このまま誰にも見つかりさえしなければ。
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