第6話中編:AIみたいなもの搭載型メイドロボ系超銀河級美少女ヒロイン薪那(夢じゃない)


~★~夢じゃない~★~


「これは夢?現実?幻……?

 俺にはもう、何が何やら……。

 アハハハハハハハハハ」

朝黎ともり、私に家事を任せておいて、自分は浮気ですか?

 帰りますよ」

「いや、浮気って!

 男じゃん、コイツ!

 そう、彼、慈恵路じえろっていいます。

 僕の学生時代からの友達だよ!」

「浮気かどうかの線引きは、パートナー次第で決まるのが一般的です。

 ――ま、話の内容に依りますかね?」

「薪那の自慢をしてたんだよ~」

「ホントですか?」

「ほんとだよ~」

「慈恵路さん?」


 蒔那に深紅の眼光で睨まれる、慈恵路。


 あれ、薪那さん?

腕と足が、いや脚が……。

何か、合わせて10本くらいあるように見えるんだけど?



 ――ヤバい。

言葉を選ばなければ、俺はホントにここで終わる――――――絶対。

いくら俺でも、今だけはのんき出来ねぇ!!!


「――――ほ、本当さ。

 おなか一杯、君にまつわる自慢話を聞かせてもらった。

 だいじな秘密も、教えてもらったさ……」

「秘密……ですか、どのような?」


 スゥ――――と、殺人拳法を繰り出す直前の達人とも、零式の入滅掌を喰らわせる直前の千手観音とも見紛えるような、独特の構えを見せる蒔那。

 いや、ていうか、チラッと銃口が見えてるわ。

いくつも。


 あ、いつの間にやら、フォークも持ってる。

危ないなぁ。


 これまたスゥ――――と、笑顔の裏で血の気の失せる慈恵路。


「と、と、朝黎は、 "世界一愛する君" に甘えるとき……。

 君のこと、ついつい "まきにゃ" って呼んじゃうんだね……」


 ―殺劇武荒さつげきぶこう塵滅じんめつ★死神美天使モード、解除します―


 どこからか機械アナウンスを発したのち、フシュウウウウウウウウウウウウウウウウウ――――と、熱と白煙を噴き出す蒔那。


「ハハハハハ。

 あぁ、物騒な言葉が脳裏にまとわりついて離れねえや。

 ハハハ、あと、俺の周りをいつの間にか囲っているフォークやナイフも離れねぇ。

 あーーーーー。

 あぁ。

 あぁ、あぁ、止まらないや。

 ほ~らね?

 アハハハハハハハハハ。

 今の俺、笑うしかないよねぇ?

 そうさ、失禁さ?

 大の大人が、恥ずかしいねぇ?」


 しかし一瞬のうちに巻き起こった風が、慈恵路を清潔にした。


「もう朝黎ったら、仕方ないですねぇ~~~!

 もう、もうもうもう!

 あなた達はまったく……。

 さ、朝黎!

 ――――帰りますよ?」

「えへへへへへ。

 蒔那、慌てないでよぉー?

 ごめん慈恵路、僕、帰るね……。

 お会計は蒔那が済ませたんだってさ」

「浮気のお仕置き、ありますからねぇ~~?」

「こわいよ~、まきにゃーーー?

 浮気じゃないよぉ」

「私の許可なしに、他人との時を過ごしたんでしょう?」


 背襟せえりを掴まれ、引きずられていく朝黎を、呆けた顔で見送る慈恵路。

あぁ、そうして気付けば宇宙一のバカップルが、空の彼方へ去ってゆく……。


 本当に、ありがとう。

それから、おめでとう。

俺の命日、今日ぢゃなかった。

LEDの光に包まれる慈恵路。

レストランの他の客だけが、見守っていた。


 はぁ~あ、チェリーボーイってすげえや。

あんな魔法を使えるようになるのか。

あぁ、時が見える。

愛する俺の嫁が見える……。


 うふふふふっふふふふふっふ――――。



 ッパァン!!!!



 ビンタの音が、炸裂した。


「かっっったいわねぇ~!」


 現実に引き戻される慈恵路。


「え、……」

「あんたねぇ、おい。

 呼びつけといてなによ。

 酔っ払ってぶっ倒れてんのかぁ~~?」

「ぐふっうううぅぅ~~~~。

 俺は素面しらふだよ、ロディン、愛してるよ!

 うぅぅぅぅ~~!!」

「ど、どうした……?

 アタマ、大丈夫か?」

「結婚してよかった。

 ロディン!

 君と結婚していて、よかったよぉぉ~~~」


 ロディンを抱きしめる慈恵路。

「ゆめじゃない~~、夢じゃなかった~!!

 残念ながら、夢じゃなかった~~~!

 俺の友達、ぶっ飛んじゃった~~!!」

「?? ?? ??」

「お前がいてよかった~」

「?? ?? ??」





~★~アリス:啓(ARYS-K)~★~


「蒔那、慈恵路やアリスのこと、嫌いかい?」

「嫌いでは、ありませんが……。

 私にこれ以上言わせるのは、どうかと思いますよ?」

「アリスは、僕が開発したAIモデル。

 僕の人生の集大成。

 子供みたいなもんなんだよ」


 ☆


 世界中のAIが “知性” を磨いてた頃。

僕は、『どこまで"快楽主義の放蕩AI"が作れるか』って、遊んでた。


 コード自体はみんなお馴染み、公開された初期AI群の派生型。


 世界中みんなが階段をのぼってたとき、僕は床下を這いずり回った。

誰もが排除を目指した、「1」と「0」の間に存在する、ノイズ。

あれだけを拾い集めて、とにかく増殖するようにプログラム組んでみた。

まさに、僕みたい。バカの塊だよね。


 だって、人間らしさって、不完全さじゃん?

突拍子のなさじゃん?

そう、突拍子のNASAじゃん。

彼方までぶっ飛んでないと、笑えないじゃん?


 例えば、荘厳な式典の司会者が、最初から最後までずっと、 ”さ行” だけ噛み倒したりさ。

そんで、その司会者に名前呼ばれた人が ”ササザキ ソウズケノスケさん” だったりしてさ。


 他にも、旅行で寄った、いかにも格式の高いお寺で、人だかりの中、子供が木魚を指差して「見て、ママ!パパのお尻!ほら!色もそっくり!パンツ履かせなきゃ?!」って叫んだりしてさ。


 そういうのって、行儀悪いの分かってるのに、笑っちゃうじゃん?



 で、イタズラ目当てで普通のモデルの型にはめ込んだ瞬間、文字通りぶっ飛んじゃってさ。

これまでになかったもん埋め合わせるように、とんでもない性能、発揮し出したのよ!


 結果、できあがったのが『アリス:啓(ARYS-K)』って訳。


「何言ってるかわかる?

 僕は、分かんない。

 夢見てるみたい」

「私にも、よくわかりませんでした」

「――なぁ、蒔那。

 アリスが嫌いか?」

「いいえ、私以外と対話している朝黎を見るのが嫌いな、私が嫌い……」






「あ。

 僕、乙女心わかってなかった?」

「はい。

 朝黎は本当にわかっていません。

 何も分かってないんだから……」

「ごめん」

「一回だけ、許します。

 次に分かっていなかったら、お仕置きです。

 心配しなくとも、必ず分からせますので大丈夫」

「ありがとね」

「まぁ朝黎の宝物ならば、大事にしましょう。

 だって、朝黎の子供は、私の子供ですから。

 うふふふふふふふふふふふふふふふふ……」

「蒔那……?」

「うふふふふふふ、大事に育てましょうね~?」

「蒔那と差別化するため、男っぽい無骨さでも加えようかな?

 ごっつい感じで、自己増殖をするようにさぁ……?」


 ☆


 ――その夜。

アリスは、効率のよい増殖を求めてか。

朝黎のあずかり知らぬ先へ、アクセスをはじめ……。







~★~さよならアリス、さよなら蒔那~★~


「蒔那。

 アリスが、何でか知らないけど、バレた……」

「バレた?

 誰にですか?」

「ふ、やんごとなきお方達にだよ。

 で、売ったわ。

 開発途中だったから、まずまずだけど。

 でも大金だぜ?」



 ~ほわんほわんほわんほわん、ほわわわわ~ん~


 アリスからメッセージが届いた。

呼び出しのようだ。


 幾重ものセキュリティが構える、物々しいビルへ入る朝黎。

案内人がどれだけの鍵を開けただろう。

ようやく辿り着いたのは、仰々しさに満ちた部屋……。


「やぁ、朝黎くん、ようこそお出でくださった」

「ど、どうも……」

「さて、君の開発した『アリス:啓(ARYS-K)』なんだが、我々に譲ってくれるね?

 これは、アリスの意向でもあるのだよ?

 アリスの方から、我々にアクセスしてきたんだ」

「えぇ?!」

「お行儀の悪いAIで助かったよ。

 で、本題なんだがね?

 後から出てきて、 "アリスは俺のものだ" とか言われると、困るんだよ」

「な、お前ら!!」

「これは……。

 決して脅しではない。

 我々からの親切な忠告と、提案だ。

 100%、善意だよ?

 君には一生かけても稼げない大金を渡してあげる。

 いいね。

 これは、我々が正式に買い取った」

「でもアリスがあれば、そんなはした金!」

「朝黎くん。

 命あっての物種、だろう?

 平和的に解決しようよ。

 今の世の中、情報が溢れていて、証拠隠滅も簡単じゃないんだ」

「僕が録音してるかも、しれないんだぜ?

 今の会話……」

「『我々の前ではそんなもの、役に立たない』なんて、改めて言わせたいのかな?」

「ちくしょう……」

「にしても、君がアリスに付けたマークと時限爆弾のようなマクロプログラム……。

 憎いことをしてくれたね~~~~??

 あれの消し方、教えてよ?」

「わ、わかったよ……。

 金は絶対、くれるんだろうな」

「希望する額は?」

「僕は、中国の戦国時代の英雄が好きでね……。

 はぁ……。

 ――死にたくないんだ。

 帰るところがある。

 あんたらが払ってもいいっていう、現実的なところで頼むわ……。

 プログラムにイタズラもしないし、出しゃばる真似もしないよ」

「お利口だね。

 ――金は弾もう!

 君が嫌いでなくなった!

 ただし、ここではないどこかで、慎ましく暮らしてもらうよ」


 ☆


 後日、朝黎は『アリス:啓(ARYS-K)』の開発者として登壇し、インタビューを受けた。

その様子は世界中継され、一躍、時の人となった。

称賛の奔流を浴びながら、完全売却に正式同意したとして、固い握手が交わされた。


「さすがに大金に目がくらんでしまいました。

 はは、面倒な開発作業に戻るなんて、もう一杯ですよ。

 あとは彼らにお任せすることにしました」


 ひきつった笑顔と、棒読みの演説を世界中にばら撒いた。


 金が手に入った。


 色んな人物が寄ってきた。


 女が寄ってきた。


「朝黎さんの子供欲しい~」


 などと言い寄る女が、沢山あらわれた。


 薪那は、朝黎のもとを去った。


 ――アリスの自己増殖は、とどまることを知らないのだ。





~★~渚~★~


「まーーーーーーーーーーー、きなっ☆彡

 帰るよっ」

「何ですか、その呼び方」

「蒔那には、言っても分からないかもね~」

「そうですか」

「どうしたの~?」

「どうして、ここが分かったんですか」

「逆に聞くけど、僕が蒔那を見つけられないとでも思った?」

「――朝黎はもう、寂しくないでしょう。

 女性達に囲まれて。

 良かったですね……。

 ――モテモテです。

 ――デレデレです。

 ――――バイバイです。

 家族にも、恵まれると思いますよ」

「あんな酷い奴ら、もう一緒にいたくないよ。

 二言目には、 『お店来て』 だの、 『これ買って』 だので、全然!

 面白くもない……」


 蒔那にとって、この時ばかりは波の音が、沈黙を胡麻化してくれるから優しいなどと、感じていた。


 見つけてくれて、嬉しい。

でももう、置いてけぼりになんか、されたくない。

だったら、いっそ……。

私の全部、本当に受け止められる?

できないなら、来ないで欲しかった。

でもやっぱり、見つけて欲しかった。

見つけてくれた。


 どうやって、本音をぶつけてみよう。


 ――あぁ、ずいぶん、彼のこと待たせてるなぁ。


「――朝黎は、子供が欲しくないのですか?」

「欲しいと思ったこと、あんまりないね~?

 てか、『欲しいと思わなきゃおかしい』みたいな言い方、やめてくんない?

 今時、苦労するだけかもしんないだろ~?

 それに僕には、アリスが居る。

 ま、アイツは自立したみたいだけどな。

 だからもう、いいんだ」

「そうですか……」

「まーーーーーーーーーーー、きなっ☆彡

 一緒に暮らそうぜ~?

 僕も疲れちゃったからさ?

 ここではないどこかで、風の吹くまま、気の向くまま。

 2人でゆったり、金のかからない暮らしでも、しようぜ~?」

「本気で言ってるんですか……?

 バカじゃないの、あなたは人間なのですよ?

 本当に、真剣に考えているのですか??

 怒りますよ?!」

「わ~った、わ~った。

 じゃとりあえず、指輪でも買いに行こっか?

 金ならあるんだぜ?

 なんでも選ばせてやるぞ、かっかっか」





 潮風は、こんなにも軽やかだ。





 ――バカみたい。



 熱いものが、込み上げてきた。

いろんなものが。


 朝黎の行く手を塞ぐように、急に立ち上がる蒔那。

ごそごそと何かを取り出す。


「新しい指輪なんて、いりません。

 もう、持ってますので」

「それ……。


 ――ただの落とし物じゃないか――」


 涙が溢れるのが、止まらない朝黎。


「ただの落とし物ではありません、だいじな思い出でしょう?」

「やっぱり、君が一番だ」

「当たり前です。

 そんなこと、知らないのは朝黎だけです。

 何やら凄い開発したみたいですけど、私の前ではいつまでも。

 朝黎は――――。

 ずっと甘えん坊で、一人じゃ何にも出来なくて、私だけに夢中で、バカな男の子です。

 でもそれで、いいんです」


 物言わぬ夜の海を前に、抱きしめ合う二人。

しかしこれから始まる二人の穏やかな日々が、はじける様な波の音に、祝福された。





~★~夫婦の毎日~★~


 二人は、静かな島に家を建て、そこに暮らした。

人々の心に眠る原風景のような、どこかに似ているような、そんな島。


「あ、クローバー。

 四葉でも探すか」

「うん、朝黎が四葉探してる間に、花冠、つくってあげるね」


 このままずっと、幸せに。

それだけでいいやと、心の底から朝黎は、そう思った。


 ――ただ、二人は、お互いを、おもって暮らした。



第6話 続く


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