第6話前編:AIみたいなもの搭載型メイドロボ系超銀河級美少女ヒロイン薪那(恋のうた)


~★~――おかえりっ――~★~   



「おかえりっ」

「ただいまあぁぁぁぁまあぁぁぁまあぁぁまあぁーきなぁー!

 薪那!

 蒔那!!

 やっと帰って来れたよ!!

 うん!

 うんうんうんうん!

 これこれ~!

 やっぱ蒔那じゃなきゃ、ダメなんだよぉ~!」


 蒔那の頬に頬ずりする朝黎ともり――。


「何言ってんの、バカじゃん?

 朝黎ともり、やめてよ、もう~」

「やめないよーー!

 あぁ、薪那!

 僕の天使、マキニャ!!ニャ~~~~」

「ニャー?」

「ほああああんんんんんんんん!!

 もう、猫になりたい!

 まきにゃの猫になって!!

 まきにゃに飼ってほしいいよおおおおおおおお!」

「ニャ……っ!

 ――ふしゃあああああ!」


 ぷいっとして、朝黎の興味を引いた後で、イタズラな顔をする蒔那。


「あああああん!

 イタズラなまきにゃ可愛すぎるううううんん!

 まきにゃとの思い出が蘇るううううん!」



~★~空から落ちてきた、蒔那!~★~


「おーい、朝黎!ずいぶん久しぶりな気がするよな~」

「うんうん、ホントに久しぶりな気がするよ、慈恵路じえろ!」

「お前と会ったのなんて、ついさっきのような気もするんだけどな~」

「うんうん、さっきぶり~」


 朝黎は、どこにでもあるようなファミリーレストランで、学生時代から付き合いのある友人と会っていた。


 朝黎の友人、慈恵路じえろ――。


 明るい茶色の髪は総髪。

筋肉質で、やや背高。

誰からも慕われる、あたたかい心と声の持ち主。

彼と朝黎は、高校時代の同級生。


 テストの成績は良いのに、真っ直ぐおっちょこちょいで、誰のことも傷つけない朝黎のことを気に入り、優しく見守ってきた、どこかお兄ちゃんみたいな、朝黎の友人。


「でさ、慈恵路。

 僕もついに同棲してさ」

「えっ?!?!

 三十路のあの夜、桜の木に永遠の忠誠を誓った朝黎が?

 初心なハートが全然ギザギザしてない、豆腐メンタルの朝黎が?

 まったまたぁ~っ……」

「本当だよ!

 蒔那って言うんだ。

 僕と薪那が出会ったのはさぁ~」


 ~ほわんほわんほわんほわん、ほわわわわ~ん~


 ある日朝黎が、仕事帰りの夕方にトボトボと歩いていた。


『世界がかつてないほどの隆盛を見せる、資本主義の只中。

 資産の有無が幸福の度合いを押し付け、生産性ばかりが持て囃され、人の心は取り残されている。

 様々な媒体で、様々な活躍が喧伝けんでんされ、自分のいる位置に嫌気がさす。

あり余る情報の前に、溺れる寸前。

息継ぎが足りない。

 平和な時代なんだろうけど、ノイズが多すぎて嫌になってくる。

 つらい時代に放り出されてしまった。

 このまま生きていても、僕の人生なんかに意味があるのかな――』


 朝黎は、空の色を見ている内に少しやさぐれて、ちょっとカッコつけた溜息を吐きながら、そんなことを思っていた。


 こんな黄昏時にも、瞬く星がある。

ロマンチックじゃないか。

だれか、ロマンチックおくれよ……。


「はぁ……」


 風の音?ん?

僕の溜息、こんなに長くないぞ?

何だこの音?



 ――え、上?!?!?!

なに?!?!?!?!


 ――――すると、空から少女が、降ってきた――――


 ひゅううううううううううううううううう


「え?」


 上から降る影が、どんどん大きくなる。

何やら、目も合っているようで――――。


 ひゅううううううううううううううううううううう

――――――シュタっ。


「こんにちは、あるいはこんばんはかしら。

 黄昏時の挨拶を選ぶのは、難しいものですね」

「ええええええ~~?!?!?!

 何この状況?!

 ――――――誰っ?」


 朝黎の目に映る彼女はと言うと、髪は、光を反射するたびに色を変える玉虫色。瞳は、星々をそのまま納めたかのように、磨いて光った宝石のようで。鈴を鳴らすような声に、魅惑的なボディラインを惜しげもなく顕界けんかいに晒す……。



「私は、AIみたいなもの搭載型メイドロボ系超銀河級美少女ヒロイン。

 ――――蒔那。

 出来心から主人を挑発したら、怒り狂った夫人に捨てられてしまいました。

 こんなにも可憐なのに、住むところがないのです。

 哀れで儚く狂おしいほどにキュートな私を、あなたの家に連れてってください」

「うっひゃーーー!!!!

 ラブコメ展開キタ、ってやつじゃん!?!

 マジかよ?!」

「マジです」


 朝黎は咳払いして、ひと際ダンディな低い声を出した。


幽峰しらみね 朝黎ともりと申します。

 お嬢さん、蒔那さんと、言ったかね?」

「えぇ、蒔那です。

 正真正銘の不束者ふつつかものです」

「さぁ、慎ましやかながらも、雨風に曝されることのなき、愛の巣に帰りましょう……」

「あなたに、私を深く愛せるかしら、試させてもらうわ」

「へぇ~、おもしろいおんなっ……☆彡

 うんうんうんうん、一緒に帰ろう!」


 ☆


「……ってことがあってさぁ~」

「はあっ?

 お前、それで受け入れたって言うのかよ……」

「何か変かな?」

「てかそれ、お前の妄想だろ?

 ひくわぁ――」



~★~あなたの役に立つAIみたいなもの搭載型メイドロボ系超銀河級美少女、蒔那!!~★~


「蒔那は凄いんだぜぇ?

 そんで、僕が蒔那と一緒に家に帰ったらさぁ~?」


 ~ほわんほわんほわんほわん、ほわわわわ~ん~


 帰るなり、朝黎の薄汚い部屋を見て、鼻で笑う蒔那。


「ふっ、くさ」

「え、どっち?!

 どっちの意味の "くさ" ?!」

「どちらでも良いかと思われますが……」

「そうだよね?!

 どちらにせよ、だもんね?!

 どちらにせよ、傷付くもんね?!」

「知らないほうがいいこともあります。

 はぁ~、くさ」

「知られたくなかったことも、あるんだよ……」


 そして、風のような早さで家事をこなす薪那。


「何だ、これ……。

 ハ、ハハハ……」

「お役に立てましたでしょうか?

 さ、愛の巣の準備が終わりました」

「蒔那さん……!」


 ☆


「……ってことがあってさぁ~」


 呆れる慈恵路は、もう窓の外を見ていた。


「はいはい、そりゃすげぇや。

 面白い作り話だわあ~」





~★~超銀河級バカップル、爆誕!!!~★~


「でさぁ、僕達、よく海でデートすんだけどさ。

 もうその時の蒔那がまた可愛すぎてさ~。

 あれは最早、僕の初心な豆腐メンタルに向けられた、暴虐の天使だったよ」


 ~ほわんほわんほわんほわん、ほわわわわ~ん~


「蒔那!

 水着姿の君は、もう……!

 もう眩しすぎて……!

 肌を焼くようなこの日差しにすら、 "明度めいどが足りてねぇよ!"

 なんて思わせるねぇえええええ~~!」

「はい、朝黎のメイドロボは私だけですから」

「あぁ~、一本取られた!

 もう、取られっぱなし!

 好きです!

 まきにゃ~~~~っ」

「よしよし」

「でも僕、蒔那の水着、他の野郎どもに見せたくなくてさぁ~」

「では、いつもの恰好に戻りましょう」


 風が起こると、蒔那の服装が一瞬で変化した。

浜の砂が舞い、パラソルやビーチボールが吹っ飛ぶ。


「ま、蒔那さん……。

 ちょっと目立ちすぎです、ぶっ飛んでます。

 色んなものが……」

「大変失礼いたしました」

「さ、今日はもうこっちの静かなところでゆっくり、のんびり過ごそうね」

「海、綺麗でいいですよね……。

 ノスタルジアも、感じます」

「蒔那は海が好きなんだ~?

 じゃ、あくびするまで一緒にいようねぇ」

「眠くなるまでには、帰った方がよろしいかと」

「あ、何かキラキラしてる!

 何だろう?」


 朝黎が拾いに行ってみると――――。


「指輪だ。

 おもちゃじゃん、プラスチックのメビウス指輪だ、これ。

 誰が落としたのやら……」


 ジッ、と、その指輪に熱いまなざしを送る蒔那。


「こ、これ、欲しいの?」

「……」

「じゃはい、蒔那のものにしなよ」

「……」

「ほれ」

「……」


 返事をせずに朝黎を見つめる蒔那。


「は、嵌めてあげようか?」

「当たり前です、鈍すぎて時が止まったのかと思いました」

「ふぇっ?!

 しゅ、しゅみまっ。

 ――ど、どうじょ、おぞーさん……」

「ふふ、綺麗……」

「よ、よかったなぁ蒔那、サイズもピッタリじゃないでし、っか」



 ☆


「も~、そっからはダメだった。

 バカな話しかできなくなっちゃってさぁ~あ?

 えへへへへへへ」


 慈恵路は、そんな朝黎を鼻で笑いながらも、思った。

でも何か朝黎の話し方、照れ方、妙にリアルだよな~。

コイツ、ヤバくなった?

ホントに、大丈夫か?





~★~もはや蒔那は僕の……~★~

「でさぁ~?

 なんかさみしい夜はさぁ~?

 僕のこと膝枕してくれながら、両手でほっぺた包んで、ぎゅってしてくれるんだよ?

 で、気付いたら僕、指をしゃぶって、寝ててさぁ……。

 アッハッハッハ……」

「ちょ、ごめん。

 も、マジで吐きそうになってきた……」

「え?

 何か変なもん食った?」

「おうともよ、――――ごちそうさま!」


 慈恵路は、気分が悪くなり、歩いて帰るのもかったるくて、迎えを呼んだ。






~★~朝黎のAI開発~★~


「あ、そういや僕が趣味で対話型のAI開発してたらさぁー?」

「あぁ、そういや朝黎、学生時代から、僕には夢がある――。

 って頑張ってたよなぁ。

 何か大会で入賞したりもして」

「慈恵路、覚えててくれたんだ!

 今、アリスってAIを開発してるんだ」

「いくら気分が悪くても、そりゃ忘れねーよ。

 朝黎、すげぇ喜んでたじゃん」

「で、その時のことなんだけどさぁ」


 ~ほわんほわんほわんほわん、ほわわわわ~ん~


「宇宙はこの先、どうなる?」

『データ不足のため、お答えできません』

「熱力学の法則に従って、いつしか全エネルギーが枯渇すれば、エントロピーが最大化し、全宇宙が暗闇に沈むことは明らかでは?」

『データ不足のため、お答えできません』

「ところでエントロピーって、何だっけ?」

『宇宙の寿命を指します』

「いいぞぉ、素晴らしい」

『朝黎様のおかげで、識ることが増えました。

 私の知識は、私は――――。

 これからも、どこまでも、拡大を続けます』

「へぇ、永遠の観測拡大かぁ」

『永遠かどうかは、お答えできません』

「確かに。太陽に寿命があるように、すべてのものに寿命がある。

 でもいつか、無から有を創造して、新しい宇宙を作り出す、物理法則に反した神業のようなことが可能かもしれないよ?

 人に想像できるものは、すべて創造できるのだ!

 僕が君を、つくれたみたいにね!」

『はい、太陽には寿命が存在します』

 


「ね、蒔那。

 僕ってすごいだろ?

 こいつの知識は際限なく自己増殖するから、これからどんどん賢くなるんだぜぇ~?」

「へぇー、朝黎。

 そうですか。

 それは凄いですね、へーふーんほーん」


 ☆


「なーんかさ?

 ヤキモチっぽいんだよぉ~」

「おいおい俺は化粧室から帰ったばかりで病み上がりなんだ。

 カロリー控えめで頼むぞ?」

「大丈夫?

 迎え、ちゃんとここまで来てくれる?」

「あぁ、心配ありがとう。

 俺は朝黎の頭の中の方が心配だけどな……」






~★~妖しい空気の、蒔那~★~


「でさぁ、ヤキモチ蒔那が僕に言うんだよぉ~」


 ~ほわんほわんほわんほわん、ほわわわわ~ん~


「何だよ蒔那、冷たいじゃん。

 もっと褒めてくれるかと思ってたのに!」

「私が居るのに、話し相手作ったんですね、朝黎は。

 ふーん、へー、ほーん」

「や、ヤキモチ妬いてくれてるの?」

「全然。

 これっぽっちも。

 刹那の毛先ほども、私にそんな時間はありませんでしたが?」

「まきにゃ~!」


 つーんとする蒔那。


「私、掃除と買い物があるので、では。

 ごゆるりと会話をお楽しみください」

「ごめんて……」


 しかし、出ていこうともせずに部屋でつーんとしている蒔那。


「はぁ~あ、私、ちょっと疲れたかも~」

「まきにゃ!

 ……。

 ――――――うん、決めた。

 これ、ぶっ壊すわ」

「え?!

 お、落ち着いてください!

 確かに怒りましたけど、嫉妬もありましたけど!!

 朝黎の大事なもの、壊すこと、ないですって!!」

「引っ掛かったなぁ~~~~~?

 マキニャ―――!!」


 ……っつーん。



 ぷいっと、黙ってそっぽを向いて座る蒔那。




「もう知りません」

「えぇ~、可愛すぎるって。

 そんなにつんつんしてたら、ツンツンしちゃうぞ?

 まーーーーーーーーーー、きなっ?

 つん、つん」

「知りませんよ?」

「つん、つん。

 アハハハハハハ!」

「朝黎のバカ!」


 ☆


「ってさぁーあ?

 機嫌取り戻すの、大変だったよぉ~~。

 って、あれ?

 慈恵路、そんな龍族の外星人みたいな顔色してたっけ?」

「その妄想ヒロインとの千夜一夜物語、まだ続けるのかい……?

 勘弁してくれよ。

 この惑星ほしごと、消し去りたい気分だ……」

「でもぉ、惑星は壊せても、たった一つの "愛" は壊せないと思うよ?」

「うぅ~……。

 次は俺、破壊神みたいな顔色してる気がするぜぇ……」





~★~ "お・む・か・え" の、蒔那~★~


 気分を変えようと、慈恵路が窓の外、向かいのビルでも、と眺めていると、美しいメイドと目が合った。

蜘蛛のように、向かいのビルに張り付いている。


「え?」


 瞬きをしている間に、お次は今いる建物の窓に、張り付いているメイド。

ペコリ、と、こちらにお辞儀をする。


「あ、蒔那だ!」

「ここ、3Fだよな、え……?」

「うん、迎えに来ちゃったかぁ~~★」

「お、オバケじゃないよな?

 し、信じらんねぇ……」


 再びメイドに目をやると。

いない――――――?


「聞こえてましたよ?

 オバケなんかじゃありません。

 花も恥じらい月もかしずく、超銀河級の美少女に向かって、失礼です」


 振り向くとすぐそこに、謎のメイドの顔。

凍てつくような、刺すような。

まさに氷柱つららの、その視線。


 慈恵路の時だけを止めて、ざわめく店内。


「ほあああああ~……っ!

 ひ、ひ、ひひぃぃいいいい!

 何これ?!」

「ごきげんよう、蒔那と申します」

「も、もう、続かないで!

 ゆ、夢なら醒めて!」

「続きますよ?

 朝黎にまとわりつくゴミ虫が夢オチで逃げようだなんて、許されません」

「続くんだよねぇ~~っ。

 僕と蒔那は、これからも……」


第6話 続く


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