第4話中編:冷たい頬のマシナ(田舎の生活)
――島に吹く風も、流れる時間も。
マシナにとっては、初めて手にする、穏やかな宝物だった。
~★~マシナの食事~★~
宿屋で食事をしている3人。
マシナはパタパタと働き回って、食事を食べようともしない。
「――マーシーナー、冷めちゃうだろ?
食事はみんなで食べるのが、我が家のルールだぞ?」
「私は大丈夫。食事は自分で何とか出来るから」
「えぇー、本当にぃい?」
「アンタ、本当に食べないよね?
でもダメ、座りなさい」
「私は本当に大丈夫。
食事する時間があるなら働くさ……」
「――ふん、結構、結構。
このおいしく煌めくお菓子たちを見てもそれが言えるかな?」
「リーヴ!
何それ、何それぇえっ?」
「本当の本当に大丈夫だ」
意固地なマシナをジッと見つめながら、バリバリとお菓子を食べ続ける2人。
バリバリと、食べ続ける。
――バリバリとマシナの目を見つめながら。
すると……。
マシナがすくっと立ち上がり、艶めかしいポーズを決めはじめた。
「ちょっと、まさか。
――マシナちゃん?
何が言いたいのかしらぁあ?」
「このヤロー、やってくれるじゃねぇか~~~っ」
にこやかに拳を固めるフリーダとリーヴ。
「美は、一日にしてならず」
「もう、マシナちゃんには、絶対にお菓子あげない!」
「って、フリーダ!
アンタ、全部食べちゃってるじゃないか」
「そういう問題じゃないの!」
「いや、それは問題だろ!」
「今はそういう話じゃない!
乙女の真剣な時間!」
「――私は、苦手な食べ物が多いから……。
一日に食べる量や飲み物もごく僅かなんだ。
心配しなくてもいいんだよ。
ありがとねフリーダ、気を遣ってくれて」
「マシナちゃん……。
――マシナちゃん!
あげられるお菓子はここにはもうないけど、マシナちゃん!!!
……マシナちゃんったら」
「フリーダはお菓子、好きなんだね。
これからはアタシの分のお菓子、全部フリーダにあげるよ」
「なんですとぉおおおおおおおおおおお!?
本当なの、マシナちゃん!
約束だよ?」
「うん、約束」
「や・く・そ・く、マシナちゃん!
いや、天使様!」
「えっへん」
「いよっ、世界一の美人!
聖女様!」
「気分がいい」
まんざらでもない顔で、様々なポーズをとり続けるマシナ。
「精霊女王!
女神様!
美の極み!
美の塊、美の結晶!
――宝!
マシナちゃんはもう!
――この島の、宝!」
「ふふん!」
「アンタら、一生やってなさいな……」
~★~マシナの足音~★~
「ねぇリーヴ。
マシナちゃんてさ、かなり独特な足音、してるよね」
「あれ、何なんだろうねぇ」
「マシナちゃんが近づいてきたらさ、すぐにわかるよね」
「あぁ、急いでいるときは、特にな」
「だったら、急がせればいい」
「何を企んでおるのだ?」
「お主も悪よのう……」
「ふふふ……」
次の日、緊急のおつかいを終えて、帰ってくるマシナ。
「戻ったぞ、リーv…」
「「わあああああああああああああ!!!!!」」
「――あれ?
マシナちゃんがいない!」
「ん~、そんな訳ないだろう、声もしたぞ?」
「って、えええええええ?!
あんなとこに?!どゆこと?」
「やられた~、何だかわかんねぇけど、やられた~っ!」
「マシナちゃん、凄い!!」
「腑に落ちねぇ~~~~~~~っ」
~★~マシナの男装~★~
ある日宿屋に、男達がやって来た。
「お~い!
マシナちゃん、力持ちだからさぁ。
ちょっとまた、手伝って欲しい仕事があってよぉ」
「アンタたちねぇ~」
「悪い悪ぃ、リーヴ。
この通りだよー、マシナちゃんの力を借りたいんだよ」
そこにマシナが、やって来た。
「リーヴ、大丈夫。
私も、島のみんなの役に立てるのは嬉しいから」
「マシナちゃんが手伝ってくれた仕事の分け前は、リーヴの姐御へも上納しますでさぁ~」
「ほぅ、アンタら、ずいぶん気前がいいんだね……」
「へっへっへ。
そいじゃ、マシナちゃん借りてくぜぇ?」
「アンタら怪しい、何か怪しい……」
「――私も見てたよリーヴ!あれは、怪しいよぉお!」
リーヴとフリーダが、こっそり覗きに行ってみると……。
「マシナちゃんの男装、色っぽいよなぁ~」
「あぁ。美人が男の恰好するのって、得体の知れない感情の起こりがあるよなぁ~」
「だからリーヴの姐御も良いんだよなぁ~」
「いつもリーヴの足元に遠慮なくじゃれつくチビどもが羨ましいぜ」
「二人とも、あんなに若いのに頼りになるな、へへへへへ……」
「やっぱり!アイツら……」
「いやらしい目ぇしてるよぉお!
リーヴのことまで話してる!
けだものだぁあ……」
「さぁさぁてめぇら!
とっとと仕上げるぞ!」
「マシナちゃんがいてくれるだけで、みんな元気になっちまって、作業が3倍の速さだ!」
「いいところ見せてぇからな!」
「それに、負けてらんねえ!」
「おう!マシナちゃん自身、とんでもねぇ力持ちだ!」
「マシナちゃん……。
島に来た時にゃあ、『魔女かも』だなんて言って、ごめんよ!」
「あんたぁ、この島の女神さまだぜ!」
「みんなマシナちゃんのことが大好きだよ!」
「みんなのマシナちゃん、いや、マシナ様!」
「マシナ様!」「マシナ様!」「マシナ様!」「マシナ様!」「マシナ様!」
「リーヴ……。
なんか、凄いことになってない……?」
「マシナもまんざらじゃなさそうだ、まぁしばらく様子見かねぇ」
後日、リーヴの宿屋に、また男達がやって来た。
「リーヴの姐御!
これ、上納でございやす!」ドッサリ
「な、えぇ~~~っ?!」
「みんな喜んで、『持ってってくんな』ってさ!」
「ふ、は、は!
よい!よい、よい!
今後は、週に1度の定期的なマシナの派遣を許可する!」
「ははぁ~~っ、この通り!」
「リーヴったらぁあ~……」
「おい、野郎ども!聞いたか!」
「「「「「ううううおおおおおおお!!!」」」」」
「みんなまでぇえ~……」
フリーダがマシナに目をやると、マシナもルンルンとしているようで……。
「マシナちゃんまでぇえ……。
でもま、いっか!
――幸せそう!マシナちゃん!」
~★~マシナの男性遍歴~★~
「絶世の美女ってマシナちゃんのことだよねぇえ」
「そうよ。ありがと、フリーダ。
男に困ったことはないし、狙った男は必ず落としてきた。
私に落とせない男などいない、全員わたしのトリコだ」
「説得力ある!すごい!」
マシナに貰ったお菓子を持って、ピョコピョコと無邪気に飛び跳ねるフリーダ。
「本当か~?
こんな野暮ったいヤツがかぁ~?
絶対、見栄を張ってるね。
アタシゃ、 "本当に好きな人には振り向いてもらえないタイプ" と見た!」
「なっ――!」
"ピクンッ" と、少し跳ねたマシナ。
「わああああ、マシナちゃんが!
初めて見る顔してるぅうー!」
両手をテーブルに置いたまま、嬉しそうに、もっとピョコピョコと跳ねるフリーダ。
「そ、そんなことはない!
私からの誘いを断れる男など、今までに――」
「ま、そういうことにしといてやるよー」
「――――もう!
もうリーヴ!
もう~~~!」
「マシナちゃんが怒ってるぅう、アハハハ」
~★~フリーダの可愛い仕草~★~
「リーヴじゃーん!何やってるの?」
「おやフリーダ、ここで会うのも珍しいね」
リーヴを見つけたとき、いつもフリーダは両手を腰の高さに置いて、ピョコピョコ無邪気に飛び跳ねながら、フリーダの腰にしがみつくようにして近づく。
短い髪を揺らしながら。
いつもリーヴの周りを囲む子供たちに、埋もれないように、目立つようにしていたのが、癖になったのだ。
花やら菓子やらを手に持ってるもんだから、あどけなくピョコピョコと……。
何だかマシナには、それがたまらなく愛おしくて……。
――ある時。
「え、マシナちゃん?!何でこんなところで?!」
――また、ある時。
「もがが?!マシナふぁん!なんでふぉんなふぉほろで?!」
――また別の、ある時。
「まふぃなひゃん!もごふぁんふぇふんおま?!」
――またまた別の、ある時。
「ふぁふぃふぁん!ふあおんほあ?」
「リーヴぅう~~。
近頃私が何かこっそり食べてる時に限って、マシナちゃんに見つかるんだよぉお。
もしかして、マシナちゃんから私への、『痩せなさい』ってメッセージかなぁ?」
「アンタ、そんなに沢山、こっそり隠れて何か食べてるの?」
「今、大事なのは、そっちの話じゃないでしょぉおー?
もう、話を変えないで!」
プンプンと怒り出すフリーダ。
「で?
マシナがアンタに『痩せなさい』、って?
そんなこと考えるタイプかぁ?
マシナがぁー?」
――後日、フリーダとリーヴが街を歩いていると、マシナが急に現れた。
「マシナちゃん?!?!」
「や、やぁ、フリーダ……」
フリーダの方をチラチラ見ながら、咳払いして、腕を上げるようにストレッチをするマシナ。腰回りを隙だらけにするようで……。
「はっは~~ん☆」
ピョコピョコ、と、リーヴがマシナに近寄ってしがみつく。
「マシナじゃーん!何やってるの?」
「え?!
あ、あ、リーヴ?
いいいいや、これはたまたま……」
「ちょっと!!
2人でイチャイチャして、私は何を見せられてるのぉお?」
「まだ分からねぇのかよー、フリーダ~?」
「もう、2人だけの世界って感じじゃん!
マシナちゃんが来てからさ、もうさ!
2人は仲良いよねっ!」
プンプンと怒り出すフリーダ。
その時、以外にもマシナが歩み寄った。
「むくれないで、フリーダ」
「別にむくれてないじゃん!
いや、むくれてるよ!
――顔はね!
どうせ私は、ほっぺたプニプニだよ!
綺麗なマシナちゃんには分からないよ!」
「フリーダ、はい」
「え、これ……?モグモグ」
「こないだフリーダが作ってくれた焼き菓子だよ。
私も作れるようになったんだ」
「マシナちゃん……。
マシナちゃああああああんん!
ごめんよぅうううバリバリ、ごめんよぅうううモグモグ!
マシナちゃんは妹みたいって思ってたけど、お姉ちゃんに昇格だよおおおおお!!モグモグ」
「アンタ、誰がどっからどうみても、一番年下だろうに。
ほっぺたいっぱいに貰ったお菓子頬張っておいて、何言ってんだい……。
にしてもマシナ、フリーダの扱いが上手くなって来たねぇ」
泣きながらお菓子を頬張るフリーダ。
しげしげとその様子を見つめるマシナ。
やや遠巻きに、そんな二人を見守るリーヴ。
「フリーダのほっぺたって、プニプニなんだ。
へぇ……」
「お姉ちゃんに昇格だよおおおおお!!モグモグバリバリモグモグ」
「確かに、一度に沢山のお菓子を収容するフリーダのほっぺたの収縮率を考察するに、プニプニという表現に誤りはないと分析できる。問題なのはどうやってさりげなくその頬に触れるかということで、その為には今の私からの大幅なモデルチェンジを不自然でないように、徐々に……」
「やれやれ、今度はアタシが仲間外れかぁー?
えいっ!」
「ちょ、リーヴ、くすぐったいよ!」
「アハハハ、ほれ!」
「アハハハひははは、ダメーーーーアハハ!」
「マシナも!」
しかしマシナは、フリーダのほっぺに触れる作戦を立案するのに夢中だ。
「マシナちゃん、動じない!
何か、考え込んで呪文唱えてる!
凄い!モグモグ」
~★~ゴットランド・クローバーのサブキャプテン~★~
「うーーん、どうしようかなぁあ」
宿屋で考え込むフリーダに、リーヴが話しかける。
「どうした、フリーダ?悩み事?」
「――うーん。
ゴットランド・クローバーの編成についてねぇ……」
あ、それ、まだ続いてたんだぁ。
とか、たった3人の編成で、そんなに悩むことが……?
と思いつつも、真剣なフリーダに水を差してはならないと、リーヴが訊ねる。
「で、編成がどうしたのさ」
「――いやね、こないだ。
マシナちゃんが私のお姉ちゃん認定を獲得したでしょ?
するとさ、バランスがさぁ…。
ゴットランド・クローバーのキャプテンは、色々面倒事を引き受けてくれるリーヴだとしても、サブキャプテンはやっぱり、掛け声担当の私じゃないと、務まらないよねぇえ」
「――私がサブキャプテンでは、フリーダは不満か?」
「わわっ!マシナちゃん!」
「――くくくくっ。
フリーダ、マシナにちゃんと説明してやんな?」
「説明って!
リーヴがキャプテンなんだから、リーヴがちゃんとまとめて!」
「フリーダが、アタシ達のキャプテンになるんだってさ!」
「わぁあ、雑!
しかも違うし!」
「――それは素敵だと思う。
フリーダ。いや、キャプテン!」
「え?え?
私が、キャプテン?ええ?」
「キャプテン、お肩をお揉みしやしょう」
「キャプテン、お菓子を作ったんだよ」
「キャプテン、お茶を入れて来やす」
「キャプテン」「キャプテン」「キャプテン」「キャプテン」
「うわあああ、何か気持ち悪いよぉお?!」
「キャプテン、何かご不満で?」
「キャプテン、どうしました?」
「…………。
ゴットランド・クローバーは、みんな平等!
キャプテンとか、ナシ!」
「キャプテン……!」「キャプテン……!」
パチ、パチ、パチパチパチパチと、拍手をする2人。
赤面するフリーダ。
「よ、よぉおし!
これからも!
ゴットランド・クローバー!
フルスロットルだぁぁあああーーーーーーー!」
キョトンとして、目を合わせるマシナとリーヴ。
「ち、ちが……。
か、掛け声は、私の仕事だから……!」
いそいそと椅子から離れるフリーダ。
リーヴは疲れるまで笑い続けて、ポカポカとフリーダに叩かれる。
その様子を見て、親指を咥えるマシナだった。
~★~みんなの笑顔~★~
ある日、珍しく悪酔いしているリーヴ。
「アタシゃ女だからって、悔しい思いを何べんもしてきたよ!
特に宿屋を経営してからはね!
ちくしょーー!」
「リーヴ、大変だったんだね……」
「男どもは、乱暴で粗雑で!」
「不潔で臭くてぇえ!」
「自分勝手」
「――え?」
「え、マシナちゃん……、え?」
ノリに合わせてきたマシナに驚いて、フリーダとリーヴが目を合わせる。
次の瞬間、もう笑いそうになっているフリーダに向けて、リーヴが頬を思い切り膨らませながら寄り目をする。
「「アハハハハハハハハ!」」
「ふふ……」
「アハハハハハ、あ!
マシナちゃん、今までで一番笑ってるぅ~~~!」
「アーッハハハハ、アンタ。
そうやってニッコリ、静かに笑うんだね。
――好きだよアタシ。
アンタのその、静かな笑顔」
「やっと笑えるようになったのは、本当にふたりのおかげ。
いつも、色んなことを思い出してモヤモヤしてたけど……。
私の心のモヤモヤを、ふたりが巻き起こすこの島の風が、吹っ飛ばしちゃった」
「マシナったら……」
「リーヴ、本当にありがとう。
あの日、人だかりを突き抜けて。
私を暗闇から照らし出してくれて……」
「え、ちょっと、何か2人がいい雰囲気だよ?
あたし、お邪魔虫?」
「……」
「マシナちゃん、黙らないでっ?!!」
「……」
「リーヴは絶対わざとだねぇえ?
バレバレだねぇえ?
――今、ちょっと笑ったねぇえ?!
我慢できなかったねぇえ?!」
「ふふ……」
「マシナちゃんの笑顔はもっと見逃せないねぇえ?!」
笑顔に溢れた愛しい時間が、みんなの心に記されてゆく。
思い出が、初めて明るく輝き出した、銀色の箱を埋めていった。
第4話 続く
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