アイリス
月詠こよみ
Prologue
「じゃあおばあちゃん、あやめのことよろしくね。」
「はい、いってらっしゃい。」
もうすぐ3歳になる娘を同居人である祖母に任せ、わたしはハローワークへ向かった。
来年度から幼稚園へ入れられることが決まり、昼の間時間を作ることが出来るようになったからだ。
「え〜結城さんは現在20歳で、最終学歴は高卒、職歴はなしのいうことでお間違いないですか?」
「あ、はい。」
ストレートな言葉で自分の現状を伝えられると、少し恥ずかしい気持ちになる。
「高校をご卒業されてから今の期間までは何をされていましたか?」
「娘がいるので育児を…あと、祖母の畑をたまに手伝っていました。」
「なるほど。お子さんはお幾つですか?」
「もうすぐ3歳になります。春から幼稚園へ通わせる予定です。」
「旦那様のご職業などは…」
「死別しました。今は祖母と2人暮らしで、今も祖母に娘を見てもらっています。」
「失礼致しました、お話いただきありがとうございます。結城さんの条件に合った求人情報を探してまいりますので、少々お待ちください。」
旦那もいない、学歴もない、収入もない。
そんな私に一体何ができるのだろう。
「お待たせ致しました。条件に一致するものですと、主にこういったパートのお仕事がおすすめです。いかがですか?」
「生涯学習課…」
「こちらはお住まいの市の教育委員会からの求人で、公民館等を含めた複合施設の、青少年係のスタッフとして働いていただくものですね。ご興味ありますか?」
「はい。」
「こちら応募締切が迫っていますので、よろしければ今日にでも履歴書を提出していただけますか?」
「分かりました。」
「かしこまりました、今ご用意いたしますね。」
トントン拍子で話が決まり、無事履歴書を提出し、後日電話で面接日時を知らされることになった。
「よかったじゃない、素敵なところ紹介してもらえて。」
「うん、そこなら時間もちょうど良さそうだし、お金が貯まればここも出られるかも。」
「そんな焦って出ようとしなくてもいいのに。ここは、あなたの家なんだから。」
「ありがとう。」
祖母とは、血が繋がっていない。
小さい頃に両親が離婚し、私は母について行った。そして、中学生に上がる頃、母は再婚した。
その再婚相手の親が今目の前にいる祖母である。
「あ、そうそう今日ね、久しぶりに木村さんのとこの子見かけたわよ。久しぶりにこっち帰ってきてたのかしら。」
「唯翔くんが?」
「そうよ〜髪も染めててオシャレになってたから一瞬誰だか分からなかったわ笑」
「そう、なんだ。」
わたしの知っている結翔くんは親とはあまり上手くいっていないようだった。
だから高校卒業と同時に家を出て、もう帰ってこないと思っていたのに。
「気になるなら連絡してみたら?なんだっけあのほら、翠ちゃんがよく使ってるスマホの…」
「LINE?」
「そうそう、LINE!それ持ってるんでしょ?」
「今更いいよ、東京行ってから話してないし。」
「でも、恭祐の事だって何も知らないんでしょ?話しておくべきじゃない?」
痛いところを突かれて、夕食を食べていた箸を止めてしまった。
結翔くんと話したくないのは、結翔くんの話を聞きたくないのではなくて、結翔くんにしたくない話があるからだ。
アイリス 月詠こよみ @yomiyomi_43
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