第8話 不穏な出発
露天で飯を買い漁ることしばらく。
予約しておいた馬車が出発する時間が近づいてきたため、俺達は乗合場へ移動した。
「おっ、エルフの兄ちゃん来たか!アンタ達が最後なんだ早く乗ってくれ」
「マジか。時間ぴったりに来たんだけどな」
「カカッ、残念ながら十分は過ぎてるぜ。まぁ、エルフがのんびり屋なのは有名だからな。一時間以上遅れなかっただけ兄ちゃんはまともな部類だよ」
が、どうやら俺の体内時計が狂っていたらしく、御者のおっちゃんに遅刻を笑われてしまった。
結構注意してるんだが、まだまだエルフの里にいた頃の感覚が抜け切っていないんだよな。
里を出てすぐの頃は、三時間遅れで行って馬車の姿がどこにも無く、よく無駄金をしてしまったっけ。
そんな過去を思い出しながら、「それでも、すまんな」と俺はおっちゃんへ迷惑料に銀貨一枚を飛ばした。
これから長い時間世話になる都合以上、余計な不和を残しておきたくないからな。
おっちゃんはそれを受け取り、「毎度」といやらしい笑みを浮かべて、御者席の方へ戻って行った。
それと同時に、俺達も馬車の中に入り左側の席に腰掛ける。
「エルフの兄ちゃん。俺達にはねぇのかい?」
クッションをリュックから引っ張り出していると、反対側に座っていた野蛮そうな髭もじゃの剣士がそんなことを言ってきた。
めんどくせぇ。
見えないようにやっていたつもりだったのだが、どうやら先ほどのやり取りを見られていたらしい。
俺は大きく溜息を吐き、鞄のサイドポッケに入っている試験管を取り出す。
「はぁ、ほらよ」
「おっと、初級ポーションか。ちと安過ぎる気もするが、品質が良いから大目に見てやるよ」
「傲慢な奴だな、お前は」
「くくっ、当然。なんてたって、俺様はBランク冒険者の『剛剣のゲルト』様だからな」
そう言って、どうだ参ったかといやらしい笑みを浮かべるゲルト。
ハッキリ言ってめちゃくちゃうぜぇ。
だが、この男が増長するのも分かる。
Bランクは冒険者としてはかなり上澄だからな。
大体一つの町に十人いるか居ないくらいかくらいのレベル。
分かりやすく言うと、ヒグマの二倍くらいの大きさを持つ馬鹿でか風魔法使い熊さんことデスベアーと一対一で良い勝負が出来るくらいの強さがあるのだ。
そこら辺の人間に負けるはずがない。
だから、高ランク冒険者はコイツのように傲慢な奴が多くて、かなり面倒なのだ。
(外れ引いちまったな)
モンスターの襲撃を受けても戦わなくてもいいのは楽だが、戦闘が終わる度にお礼と称してカツアゲされるそうでマジダルい。
それだけでも面倒なのにこういう手合いにはもう一つ最悪なことがある。
「それにしても、エルフが連れて歩くにしては汚らしくてブサイクばかりだな」
「「「っ!?」」」
そう。
自分がマウントを取るために、めちゃくちゃダル絡みをしてくるのだ。
「うるせぇよ。人の助手に文句を付けんな」
「助手?こいつらが、こんなガキ達が役に立つとは思えねぇが……って!よくよく見たらコイツらスラムにいたガキじゃねぇか!こりゃ、傑作だ!自分達の力で這い上がることも出来ないゴミ達が役に立つわけねぇだろ」
しかも、最悪なことに三人のことを知っていたようで、ゲルトは笑みを醜悪に歪める。
「あぁーくっせぇ、くっせぇ。臭くて鼻が曲がりそうだわ。テメェら早く降りろよ」
「ひっ!?ごめんなさいごめんなさいなのです」
ゲルトに座っている側を蹴られたメルは凹んだ箇所を見て、涙目になりながら必死に謝り出した。
相手の機嫌を損ねないように。
これ以上攻撃されないように。
これ以上、致命傷を喰らわないように。
身体を限界まで丸めて謝り倒し、そんなメルを他の二人が守るように左右から抱きしめた。
その光景だけで、彼女が長年スラムでどんな風に過ごしてきたのかが容易に窺えて。
気分が悪くなった俺は思わず、舌打ちを打つ。
それはずっと黙っていた他の乗客も同じだったようで、「……そろそろ時間だから座ったほうが」と小さく制止の声が上がった。
しかし、その程度で調子に乗りまくった男が止まるはずもなく。
「あん?うっせぇよ、俺はこのゴミ達のせいで鼻が曲がりそうだって言ってんだよ」
ゲルトは苛立だしげに眉を顰めながら、もう一度椅子を蹴り穴を開けた。
それにより、周囲にいた人間達が息を呑みサッと目を逸らす。
こんなやばい奴に目をつけられたら終わりだと判断したのだろう。
それは賢い判断だ。
普通ならきっとそうする。
だが──
「さっさとそのゴミまとめて降りろや、腐目エル──「『
──生憎と俺は普通じゃない。
ゲルトを含めた全員に浄化魔法をかけ、立ち上がる。
「これでもまだ臭えか?髭もじゃ野朗。だったら、今すぐ病院か教会に行くことをオススメするぜ?鼻が腐っちまったってな」
俺はガキ達とゲルトの間に立ち、
瞬間、ピシピシッと髭もじゃの顔に青筋が浮かぶ。
「ハンッ。良い度胸だ、てめぇ、後で覚えとけよ」
が、すぐにこの狭い車内では大剣を振り回さないと判断したのだろう。
次の休憩になったら殺すという明確な殺意を俺に飛ばしながら、乱雑に自分の席へ腰を落とす。
その後、少しして御者のおっちゃんが鞭を鳴らし、馬車はゆっくりと走り出したのだった。
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