お久しぶりです、魔女のご帰還です。
スクール H
第1話
『悪魔の子、魔女め!お前が王族であることが一番の汚点だ!』
『あんたなんて私の子どもでもなんでもないわ!』
『反吐が出る。俺に近づくんじゃない』
『お姉様は生まれてくるべきではなかったのよ』
家族からの罵声が頭に響く。誰からも愛されず、嫌われ、貶されてきた。どんなに努力しても相手にされず、人としても扱ってくれなかった。
私は悪魔の子、”闇魔法”しか使えない人だから。
誰かを傷つけてしまうかも知れない、呪ってしまうかも知れない、殺してしまうかも知れない。危険な存在だから。
『お前は追放だ。もう二度と戻って来るな』
父親である国王からの残酷な言葉は、十五歳の私には深く突き刺さった。確かに父の娘のはずなのに、一度も愛してくれなかった。母も顔すら合わせてくれず、兄妹も同じ人間として扱ってくれない。
仕方がないのかも知れない。
災いとなる闇魔法しか扱えない人など、誰も一緒にいたくはない。
闇魔法を扱う人の特徴でもある黒髪と黒目。家族とはまるっきり違う容姿。きっと最初から家族じゃないんだ・・・そう思ってしまう。
誰もが私を災いとなる人、”魔女”として認識している。
追放されることになった私に同情していた国民も、私を見た瞬間に石を投げてくる。異様な黒目に黒髪は、誰が見ても恐怖を感じてしまう。
『魔女を殺せぇ!』 『早くいなくなれ!消えろぉ!』 『帰ってくるなぁ!』
人々の怒声が頭の中で鳴り響く。この力を持ってしまったせいで私は国から、世界から、神から嫌われる存在になってしまった。
消えない心の傷。冷たい罵声が今でも・・・
「―――さん!リビアさん!今日こそ返事をください!僕と、結婚してください!」
ゆっくりと目を見開くと、目の前にはクリーム色の若い青年が私をじーっと見つめている。赤いマントを羽織る彼の手には、色とりどりの花が。
「ハンス、何度も言っているでしょ。私は貴方と結婚はできないわ」
私がこの辺境に来て早七年。彼は私の住んでいる修道院周辺の土地を治める男爵の息子。歳は十七と私よりも五歳年下で、どうしてだか毎月私に結婚を申し込んでくる。
「ハンス、私なんかと結婚するべきでは無いわよ。もっと素敵な人はいっぱいいるわ」
「そんなことありません!五年前、リビアさんに命を救っていただいてから、僕の気持ちは貴方一筋です!」
一人の女性として言われて嬉しい言葉。でも、私には恋なんてふさわしくない。
あの時、彼が野犬に襲われていたのを救ったのはたまたま。当時はまだ、私の闇魔法を活かせる機会があるんじゃないかと模索していた時期だったわね。
でも、そんなの無意味でしか無い。
どんなに人を助けても、結局私の魔法を恐れて怖がってしまう。
「ハンス、私は闇魔法を使うのよ」
「知っています!あれはもの凄くかっこよく、そして美しかったです」
純粋な真っ直ぐな笑顔。心からそう思っているのだと分かる。
そんな好意に少しの恥じらいがあるが、それよりも罪悪感の方が重い。
「ハンス、貴方は闇魔法を全く知らないわよね。何度も言うけどもの凄く危ないものなの。神からの烙印なのよ」
「そんなことはありません!素晴らしい魔法ですよ!」
その純粋さに呆れて憤りすら感じる。
何度も何度も求婚してきて、私のことを毎回褒めてくる。怪しさもあるけど・・・彼にはそんなことは無理だろう。
こうやって対面で話せる相手はほとんどいない。私のことを怖がって近寄ろうともしない。だから、こんなことをするのは嫌だけど―――
「【呪詛】」
そう唱えると私の手のひらの上に、黒く蠢く丸い球が生み出される。目が吸い込まれるような美しさと体を震わせるような恐怖。
人間に不快を与えるこの魔法は、触れただけで相手を三日三晩苦しませる。それぐらい危ない魔法だ。
「これを見ても同じことを―」
「綺麗!これがあの時の!」
ハンスは声を上ずらせながら、いきなり球へと触れようとしてくる。咄嗟に魔法を消去したが、僅かに触れてしまったためかハンスの右手の指が赤く染まりだす。
「何をするのよ!危ないわよ!こんなのに触れたら貴方は死んでしまうわ!」
【呪詛】は普通の大人が受けても死にはしない。でも、まだ十七の彼だとしたら分からない。体もまだしっかりと出来上がっていないから。
「指が赤く変色して・・・それは一生治らないのよ!貴方は【呪詛】の中にある効果の一つに触ってしまったのよ」
効果はもちろん人の肌の色を赤く変色させるもの。聖魔法でも直せない、一生残るもの。
「へへへ、大丈夫ですよ!」
「大丈夫じゃないわよ!何であんなことを!」
「だって触れば、リビアさんのことを好きである証明になるから」
「!!!」
なんて幼稚で馬鹿な発想なの。自らが苦しんでまで、私みたいな魔女になりたい?本気でそう思っているのなら、本物の馬鹿よ!
でもどうして心臓の鼓動がこんなに早くなるんだろう?
「い、いいから早く家に戻りなさい!私とは関わらないで!」
それが貴方のためだから・・・
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