第25話 坂東クーデター
数日後、ライフ・サイエンス社の爆発事故は、連日ニュースのトップを飾っていた。原因は未だ不明と報じられる中、強志は胸騒ぎが止まらなかった。あの夜、空き工場跡地で遭遇した赤堀と幸手ファントムズ。そして、その工場からほど近い製薬会社の爆発。点と点が繋がりそうで、繋がらない。しかし、漠然とした予感が、彼の心をざわつかせ続けていた。
そんなある日の午後、強志は高校の図書館で、古びた郷土史の資料を読んでいた。小田氏治の歴史を調べていたついでに、偶然手に取ったものだった。そこに、彼の心を捉える記述があった。
「……坂東地方は古くより、中央政権から独立志向の強い土地柄であり、その歴史の中で幾度も**『坂東クーデター』**と呼ばれる反乱が勃発してきた……」
強志は思わず息を呑んだ。坂東クーデター。この言葉は、彼の脳裏に強く焼き付いた。
その日の夕方、翔太から連絡が入った。
「強志!やべぇことになってるぞ!」興奮した声が電話越しに響く。
「どうしたんだよ、翔太。なんかあったのか?」
「南栗橋の爆発事故、どうやらテロっぽいぞ!しかも、それが原因で、政府が坂東地方への規制を強化するって動きがあるらしい!」
「テロ……!?」強志は驚きを隠せない。
「ああ、まだ公式発表はされてねえけど、ネットでは情報が錯綜してる。なんか、『坂東解放戦線』とかいう過激派組織の犯行だとか、妙な噂まで飛び交ってるんだ。おまけに、今日の夕方から、坂東大通りでデモが始まるって話だ!規制に反対する連中が、一斉に立ち上がるってよ!」
強志の脳裏に、「坂東クーデター」という言葉が鮮明に蘇った。まさか、過去の出来事が、現代に形を変えて再現されようとしているのか。
「どこだ、デモは!」強志は、いても立ってもいられなくなった。
「坂東大通りの南栗橋駅側だ!お前も来るか!?」
「ああ!すぐに行く!」
強志は犬上に連絡し、急いでハリケーンGXに飛び乗った。南栗橋駅へと向かう道中、普段は静かな住宅街にも、ざわめきと緊迫感が漂い始めていた。遠くから、群衆の怒号と、シュプレヒコールらしきものが聞こえてくる。
坂東大通りに差し掛かると、そこはすでに人でごった返していた。道路を埋め尽くすほどの群衆が、「規制反対!」「自由を返せ!」と叫びながら、拳を突き上げている。その中心には、様々なプラカードや旗が林立し、異様な熱気が立ち込めていた。
「すごい人だな……」犬上が呆れたように呟く。
強志の視線は、群衆の中をさまよっていた。そして、その視線の先に、彼は信じられない光景を目にする。デモ隊の最前列で、拡声器を手に演説している男。その顔は、紛れもなく赤堀龍二だった。彼の周りには、幸手ファントムズの連中が固まっている。
「赤堀……!」強志は固唾を飲んだ。
「坂東の自由は、俺たちの手で守るんだ!この不当な規制に、俺たちは決して屈しない!」赤堀の声が、拡声器を通して響き渡る。その目は、以前の憎悪に満ちたものとは異なり、どこか狂信的な光を宿しているように見えた。
強志は直感した。ライフ・サイエンス社の爆発、そしてこのデモ。全てが赤堀に繋がっている。これはもはや、彼のチャリを巡る個人的な争いではない。赤堀は、何か巨大な企みに手を染めている。
その時、デモ隊の後方から、けたたましいサイレンの音が近づいてくる。機動隊の車両だ。彼らがデモ隊を排除しようと動き出すと、群衆は一層激しく抵抗し始めた。
「これは……本当にクーデターなのか……?」
強志は、目の前で繰り広げられる光景に、言葉を失っていた。
彼の心臓が、激しく高鳴る。尾崎豊の「スクランブル・ロックンロール」が、彼の脳内で響き渡った。
この混沌の中で、強志は一体何をすべきなのか。彼の「坂東クーデター」は、今、始まったばかりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます