第12話 悪友

 常総の冬が終わり、桜が咲き始めた頃。

 小池強志は、相変わらずパソコン部に入り浸り、帰宅すれば古いセガサターンと格闘していた。


 その日、小池はゲームショップで1本の中古ソフトを手に取った。

『バイオハザード ディレクターズカット』。

 ポリゴンで描かれたゾンビたちが、まるで自分の内面そのものに見えた。


「この街も……腐ってる」


 強志はそうつぶやき、プレイを始めた。

 無数のアンブレラ社員を撃ち抜きながら、彼は思った。

“ルールの外から壊す”――それが、彼の選んだ生き方だった。



---


 そんなある日、部室に転校生が現れた。


 名前は――犬上 利昭(いぬがみ としあき)。

 栃木の中学を退学になり、常総に転校してきたという噂の男。


 細身、黒髪、無表情。だが背負ったナップザックには、

「湾岸署」のステッカーと「俺たちの勲章」の缶バッジが貼られていた。


 強志がバイオハザードの画面をのぞかせると、犬上はボソッとつぶやいた。


「それ、初見プレイじゃ犬にやられるやつ」


「……お前、やったことあんのか」


「当然。あと“あぶデカ”も全話持ってる」


 その瞬間、ふたりの目に火が灯った。



---


 昼休みの教室。


 ふたりは机を突き合わせ、「あぶない刑事」の名場面を語り合った。


「やっぱ“もっとあぶない刑事”のタカとユージが最高だよな」


「最終話はユージ死ぬかと思った……」


 ふたりはそれぞれ、**ユージ派(強志)とタカ派(犬上)**に分かれ、真剣に議論を交わした。

どちらがより“男”か、より“渋い”か。中学生レベルの口論を、全力で。


 だが、それは強志にとって初めてだった。

“何かを一緒に語れる存在”

“本音で会話できる男”


「……お前、何者なんだよ」


「さあな。俺も腐ってたからな。

でも、ゾンビじゃねえぞ。まだな」



---


 それからというもの、ふたりは放課後、廃屋に集まり、

「ゾンビ狩りごっこ」と称してエアガンを持って突入した。


 教室の裏で、「タカ&ユージごっこ」をしながら教師の真似を撃ち抜いた。


> その廃墟のなかで、小池強志と犬上利昭は“共犯関係”を結んだ。

 ナイフとコード、カメラと銃、そして“あぶデカ魂”で武装しながら。





---


 強志のノートPCには、新たなフォルダが生まれていた。


> 【Inugami_Link.zip】

「もしもの時は、これを使え」


 内容は不明だった。ただ、強志がこのフォルダだけは決して消さなかったこと。

 そして後に、渋谷黒幕事件と呼ばれる出来事の発端に、このフォルダが関与していたという噂だけが残った。




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