第3話:光のパンの誕生
翌朝、私は新しい生地をこね始めた
今度は、躊躇なく、あの金色の粒子と、この星で見つけた
「星の酵母」
そして
「星の雫」
と
「甘い結晶」
を生地に混ぜ込んだ
粒子が小麦粉に触れると、まるで小さな星が弾けるように、微かに煌めき、生地全体に溶け込んでいく
混ぜる瞬間の迷いも、恐怖も、もうなかった
あるのは、愛ちゃんを地球に帰す、そしてこの宇宙人の、まだ見ぬ
「小さなもの」
のために、最高のパンを焼くという、研ぎ澄まされた覚悟だけだった
粒子を混ぜた生地は、まるで自ら生命を宿したかのように、これまでとは全く違う膨らみ方を見せた
発酵が進むにつれて、生地全体が淡い金色の光を帯び始め、微かな甘い香りが、金属の匂い混じる冷たい調理場に広がる
オーブンに入れると、その光はさらに強くなり、窯の中に小さな星々が瞬いているかのように見えた
焼き上がったパンは、見慣れたUFOの形をしてはいたが、表面に金色の光沢が宿り、まるで生きているかのように微かに鼓動しているように見えた
触れてみると、パリッとしたクラストの奥から、ふんわりとした柔らかさが伝わり、指先からは微かな熱と、まるで星の輝きのような粒子を感じた
完璧な焼き色だ。焦げ付きもせず、理想的な膨らみ
何よりも、そのパンから放たれる眩いばかりの金色が、私の心を震わせた
恐る恐る、宇宙人にそのパンを差し出す
私の心臓は、耳元で雷鳴のように鳴り響いていた
これが、最後かもしれない
彼らのテレパシーで何の言葉も返ってこない
ただ、彼らの大きな目が、いつもより大きく開かれているように見えた
その触手が、震えるように、ゆっくりとパンに伸びる
■記憶の波:失われた光と希望、そしてパンの真実
一瞬の静寂の後、宇宙人がそのパンを口にした
その瞬間、彼らの体がまばゆい光に包まれた
その光は調理場全体を照らし、まるで星そのものが生まれたかのように、どこまでも、どこまでも広がっていく
そして、私の頭の中に、これまでの断片的なテレパシーとは全く違う、明確で鮮やかな「記憶」の波が、津波のように押し寄せてきた
それは、宇宙人の星の記憶だった
遥か昔、彼らの星にも豊かな大地が広がっていたこと
そこで育つ特別な麦から作られる「光のパン」が、彼らの文化の中心であり、喜びと希望の象徴だったこと
そのパンを食すたびに、彼らの心には温かい感情があふれ、星全体が光に満たされていたこと
しかし、ある時、突如として降り注いだ隕石群がその麦を絶滅させ、星の光は失われた
パンと共に、彼らの感情も薄れ、希望は消え失せていったのだ
彼らは長い間、「光のパン」を求めて宇宙を彷徨っていた
そして、地球で、偶然、愛ちゃんが持っていたUFOクリームパンの形と、そこから漏れ出す微かな「光の粒子」が、失われた「光のパン」の記憶と共鳴し、彼らの心を突き動かしたのだということが分かった
この記憶の波は、私の心に、まるで映画のように彼らの歴史を映し出した
彼らの星は、かつては生命に溢れ、青々とした麦畑が広がる美しい場所だった
麦の穂は、太陽の光を浴びて金色に輝き、収穫期には星全体がその光で満たされたという
彼らはその麦を「天の恵み」と呼び、収穫を祝う祭りは、星の最も盛大な行事だった
祭りの中心には、常に「光のパン」があった
それはただの食料ではなかった。彼らの喜び、悲しみ、怒り、愛、すべての感情がそのパンの中に込められ、共有された
パンを分かち合うことで、彼らは互いの心を理解し、絆を深めていったのだ。幼い子供たちが初めて光のパンを口にする時、その瞳は期待に輝き、親たちは愛情に満ちた眼差しで見守っていた
若者たちは、愛する人に光のパンを贈り、永遠の愛を誓った
老人は、人生の節目に光のパンを食し、過去を懐かしみ、未来に希望を抱いた
光のパンは、彼らの存在そのものだったのだ
しかし、その幸福な時代は、突然の悲劇によって終わりを告げた
空が赤く染まり、無数の隕石が星に降り注いだ。大地は引き裂かれ、豊かな麦畑は焦土と化した
彼らの命の源であった特別な麦は、一本残らず絶滅した
希望の象徴であった光のパンは、もう作ることができなくなった
パンを失った彼らの心は、次第に色を失っていった
感情は薄れ、彼らは機械のように、ただ生きるだけの存在へと変貌していったのだ
かつての美しい星は荒廃し、彼らは失われた光を求めて、絶望的な旅に出た
無数の星々を巡り、遠い記憶の中に残る「光のパン」の痕跡を探し求めた
しかし、どこにも、彼らの求めるものは見つからなかった
旅は果てしなく、彼らの心はさらに冷え切っていった
宇宙人の「チイサキモノガ、欲シテイル」という言葉の真意も、この記憶の波で完全に理解できた
彼らは、愛ちゃんの中に、まさしく命の光のように輝く「光の粒子」を見出したのだ
そして、その光こそが、彼らが待ち望んでいた「光のパン」を再現するための最後の、そして最も重要な鍵だと信じていた
愛ちゃんは、彼らが感情を取り戻すための、まさしく希望の光だったのだ彼らは愛ちゃんの光に導かれ、この地球、そして私の元へとやってきたのだ
■宇宙への決断:唯一のパン職人として
宇宙人の体が完全に光り輝いたその時、私の目の前に、再び、あの大きな宇宙人が姿を現した
彼らの触手は、以前よりもずっと穏やかに揺れ、その大きな目には、これまで感じられなかったような、深い感謝と、そして微かな「感情」のようなものが宿っているように見えた
彼らから、再びテレパシーが送られてきた
今度は、断片的ではなく、明確な意思が伝わってくる
「佳奈……貴方ノパン……我々ノ星ニ、光ヲ戻シタ……。我々ノ文明ハ、感情ヲ失イカケテイタ。ソノパンハ、失ワレタ記憶ヲ繋ギ、新シイ生命ノ源トナル……」
彼らのテレパシーは、以前のような機械的な響きではなく、まるで遠い故郷の歌のように、私の心に深く響いた
そこには、切望と、喜びと、そしてかすかな期待が込められていた
彼らがどれほどの時間を、どれほどの絶望の中で過ごしてきたのか、そのすべてが伝わってくるようだった
彼らは、私という地球のパン職人が焼いたパンによって、失われた自分たちを取り戻したのだ
それは、奇跡としか言いようのない出来事だった
そして、彼らは空間の一点を指し示した
そこには、愛ちゃんが、チビ宇宙人と一緒に、穏やかに眠っている姿があった
愛ちゃんの顔は安らかで、まるで夢でも見ているかのように、ほんのりと微笑んでいる
その頬には、かすかに光の粒が煌めいているようにも見えた
チビ宇宙人は、愛ちゃんの傍らで、満足そうに丸くなっている
彼らの小さな体は、以前よりも光を帯びているように感じられた
愛ちゃんは、無事だった。そして、彼らは愛ちゃんを傷つけるつもりなど、最初からなかったのだ
彼らが欲していたのは、愛ちゃんの「光の粒子」であり、それは愛ちゃんの生命そのものではなく、彼女の可能性、彼女の持つ希望の輝きだったのだ
「チイサキモノハ、我々ノ希望ノ光……貴方ノパンハ、ソノ光ヲ育ム……。佳奈……願ワクレバ、我々ノ星ニ留マリ、光ノパンヲ焼キ続ケテホシイ……。貴方ハ、我々ノ星ノ、唯一ノパン職人トナル……」
宇宙人の言葉は、私の心を深く揺さぶった
地球に戻る。勇気くんの隣でパンを焼く
それが、ここに来るまでの私の全てだった
私の人生の目標であり、夢であった
勇気くんのパン屋で、彼と共にパンを焼き、将来を語り合う
それは、私の心を温かく満たす、最高の未来像だった
でも、今、目の前には、私にしか作れない「光のパン」を求める、感情を取り戻した宇宙人たちがいる
彼らの瞳には、かつての無機質さはなく、確かに「希望」の光が宿っていた
愛ちゃんは無事だ
そして、私は、この宇宙で、私だけの「パン」を見つけた
それは、単なる美味しいパンではない
失われた文明の光を取り戻し、新たな生命の源となる、奇跡のパンだ。
私の心の中では、激しい葛藤が巻き起こっていた
地球での生活、家族、友人、そして勇気くん
それらをすべて捨てて、この見知らぬ宇宙で生きていくのか? 想像するだけで、足元がぐらつくような感覚に襲われた
地球でのパン作りは、私の喜びであり、生きがいだった
しかし、それは「誰かのために」という前提があった
勇気くんのために、お客様のために
でも、この「光のパン」は、私の手からしか生まれない
私だけが、この星の未来を照らすことができるのだ
私は、愛ちゃんが安らかに眠る姿を、そして、私を見つめる宇宙人の瞳を見た
彼らの瞳には、かつての無機質さはなく、確かに「希望」の光が宿っていた
その光は、私の中に眠っていた、まだ見ぬ可能性を呼び覚ますようだった私は、地球で誰かの夢を追いかけるのではなく、この宇宙で、私自身の、そしてこの星の、壮大な夢を追いかけることができるのかもしれない
「……分かりました」
私の声は、宇宙の静寂に吸い込まれるように小さく響いた
しかし、その声には、揺るぎない決意が込められていた
「私にしか作れないパンがあるなら……このパンが、あなたたちの希望になるなら……私、ここでパンを焼きます。宇宙人専属の、パン屋として」
それは、恋愛目的でパン屋になった、あの日の私からは想像もできない決断だった
勇気くんのことは、きっと忘れることはないだろう
美佳先輩の言葉も、花丸おじさんの笑顔も、地球のパン屋の温かい匂いも
全てが、私のパン作りの源になる
しかし、もう二度と、あの場所へ帰ることはない
私は、宇宙の広大な闇の中で、新たな光を見つけ、その光を育むことを選んだのだ
私は、宇宙人の前で、深く頭を下げた
「私に、この星のパンを、焼かせてください」
宇宙人は、静かに、そして深く、触手を揺らした
それは、承諾と、そして歓迎のサインだった
彼らの触手の動きは、以前よりもさらに繊細で、まるで祝福の舞を踊っているかのようだった
私の決断が、彼らにとってどれほど大きな意味を持つのか、その全身から伝わってきた
私は、この瞬間、本当に宇宙の一員になったのだと実感した
■星屑を練り込んだパンと、広がる宇宙の家族
宇宙のパン職人、佳奈
それから、私の宇宙での新たな生活が始まった
この星の重力は地球と少し異なり、最初はふわふわとした浮遊感に戸惑ったけれど、すぐに慣れた
まるで、夢の中で空を飛んでいるような感覚で、作業効率も上がったような気がした
金属と鉱物で構成された調理場は、私の手になじんだ道具と、新たに与えられた不思議な装置で満たされていた
オーブンは地球のものよりはるかに高性能で、焼き加減を完璧に制御できる
生地を入れると、内部の温度や湿度、さらには金色の粒子の活性度までを自動で調整し、最適な焼き上がりを追求してくれた
そして何より、この星には、私が「光のパン」を焼くための無限の材料、つまりは純粋な金色の粒子がそこかしこに存在していた
星の鉱山で採掘されるそれは、地球の金よりも純度が高く、生命のエネルギーを秘めているかのようだった
私は、宇宙人専属のパン屋として、毎日「光のパン」を焼き続けた
金色の粒子を混ぜた生地は、私の手の中で生き物のように呼吸し、オーブンの中で、星の輝きを放ちながら膨らんでいく
焼き上がったパンは、宇宙人の「味覚センサー」を、常に眩い光で満たした
彼らはパンを口にするたびに、全身から光を放ち、その光は調理場全体を、いや、この星全体を包み込むようだった
宇宙人たちは、パンを食べるたびに、少しずつ、しかし確実に感情を取り戻していった
彼らのテレパシーは、より豊かになり、時には喜びや感謝の念を、直接私の心に伝えてくるようになった
最初は
「チイサキモノ」
「パンヲヨコセ」
といった、必要最低限の言葉しか理解できなかった彼らのテレパシーが、次第に感情の機微を帯び、複雑な思考を伝えてくるようになったのだ
ある日、一人の宇宙人が私の前に立ち止まり、以前は想像もできなかったような、穏やかなテレパシーを送ってきた
「佳奈……貴方ノパンハ……我々ニ……笑ウコトヲ……教エテクレタ……」
その言葉に、私の胸は熱くなった
彼らの硬質だった顔に、本当に微かではあるが、感情の動きが見られるようになったのだ
彼らは私に、星の歴史や文化、そして「光のパン」にまつわる伝説を教えてくれた
私は、彼らの失われた記憶を、パンという形で繋ぎ止める役割を担っていたのだ
彼らは、私がパンを焼く間、興味津々にその様子を見守るようになった
私が生地をこねる手つきを真似しようとしたり、焼き上がりの香りを嗅いで陶酔したり
時には、彼らの持つ高度な科学技術で、パン作りの効率を上げるための提案をしてくれることもあった
彼らは、私を「星のパン職人」として敬い、大切にしてくれた
私は、彼らとの交流を通して、パン作りの新たな可能性を見出し、毎日が発見と喜びの連続だった
ある日、彼らは私を連れて、星の奥深くにある「記憶の洞窟」へと案内してくれた
そこは、まるで星の心臓部のような場所で、遥か昔の彼らの文明の記録が、光の結晶となって保存されていた
洞窟の壁には、宇宙の歴史を物語る壮大な壁画が描かれており、その中には、色とりどりの「光のパン」が描かれ、人々の笑顔が溢れていた
子供たちがパンを囲んで歌い、踊る姿。老夫婦がパンを分け合い、静かに微笑む姿
戦士たちが戦いの前にパンを食し、勇気を奮い立たせる姿
そのすべてが、彼らがかつてどれほど豊かな感情と、芸術性を持っていたかを示していた
私はそこで、彼らの失われた音楽を聴いた
それは、パンの発酵する音や、焼ける香ばしい匂いを表現したような、優しくも力強い旋律だった。彼らの描いた絵画は、光のパンの輝きを表現したような、鮮やかな色彩に満ちていた
その記憶の断片は、私が焼くパンに、さらなる深みと意味を与えてくれた
私は、単にパンを焼いているのではなく、彼らの失われた歴史と文化を再構築し、未来へと繋いでいるのだと実感した
私のパンは、単なる食料ではなく、彼らの魂の拠り所となっていた
■惑星で出会った、もう一つの家族
そんなある日、宇宙人の長老が、私に新たな任務を言い渡した
この星から遠く離れた、別の惑星に住む同胞たちが、深刻な問題を抱えているというのだ
彼らは感情を失い、さらに恐ろしいことに、共食いをしているという
彼らの様子を伝えるテレパシーの映像は衝撃的だった
そこに映し出された宇宙人たちの顔は、なんと、地球のUFO型クリームパンと瓜二つだったのだ
彼らは互いの顔を食い合っており、その光景はあまりにも異様で、私の胃の腑がねじれるようだった
「佳奈……貴方ノパンガ……彼ラヲ救ウ……」
長老の言葉に、私は迷わず頷いた
愛ちゃんを地球に帰すためにパンを焼いたあの日と同じ、いや、それ以上の使命感が湧き上がってきた
私は、この宇宙で、私にしかできないことがあると確信した
私はすぐさま、新たな「光のパン」を焼き始めた
今度は、UFO型クリームパンの形だ
金色の粒子と星の酵母、星の雫、甘い結晶を惜しみなく使い、心を込めて三つのパンを焼き上げた
焼き上がったパンは、これまでのものと同様に、眩い金色の光を放っていた
その光は、まるで彼らの失われた感情を呼び覚ますかのように、強く、温かかった
宇宙船に乗り込み、指示された惑星へと向かう
長老から与えられた宇宙船は、地球の技術では考えられないほど高度なもので、あっという間に目的の惑星に到着した
惑星に降り立つと、そこには本当に、顔がUFO型クリームパンそっくりの宇宙人たちがいた
彼らは感情のない目で互いを見つめ、飢餓に突き動かされるように、自身の同胞の「顔」に食らいついていた
その光景は、私が見てきたどんなものよりも衝撃的で、心が締め付けられるようだった
彼らの目は、まるで魂が抜けたかのように虚ろで、そこに宿るはずの光は完全に失われていた
恐る恐る、焼きたてのパンを差し出す
私の心臓は、警鐘のように鳴り響いていた
彼らは、警戒する様子もなく、私の手からパンを奪い取るようにして口にした
彼らの硬い触手がパンに触れると、微かに震えるのが分かった
まるで、そのパンが、彼らにとってどれほど待ち望んだものだったのかを物語っているようだった
その瞬間、信じられないことが起こった
彼らがパンを一口食べるたび、彼らの顔が、文字通り再構築されていくのだ
食い荒らされていたはずの顔に、クリームパン型の輪郭がはっきりと現れ、くぼんでいた目元に光を宿した目が、そして口元には穏やかな笑みが浮かび上がった
三つのパンを平らげた三体の宇宙人は、完全なUFO型クリームパンの顔を取り戻していた
彼らの体から、淡い金色の光が放たれ、それは瞬く間に周囲に広がっていった
「……ア、アァ……」
彼らから発せられたのは、断片的ではあったが、はっきりと感情のこもったテレパシーだった
それは、これまで私が聞いたどのテレパシーよりも、生々しく、そして感動的な響きを持っていた
「……佳奈……貴女ハ……我々ノ顔ヲ……戻シテクレタ……」
「……長イ間……失ワレテイタ……感情ガ……」
「……有難ウ……有難ウ……」
彼らの大きな目には、これまで見たことのない、深い感謝の念が宿っていた
その瞳は、まるで生まれたての子供のように純粋で、希望に満ちていた
そして、彼らの間に、微かな共鳴のようなものが生まれたのを感じた
彼らは互いの顔を見つめ合い、静かに、しかし確かに感情を共有しているようだった
彼らの触手が、そっと互いに触れ合い、そこから温かい光が放たれる
それは、失われた絆が再構築されていく瞬間だった
私が焼いたパンが、文字通り彼らの「顔」と「感情」を取り戻したのだ
この惑星の宇宙人たちは、私のもう一つの家族となった
私は、彼らのために、これからもパンを焼き続けることを誓った
彼らが完全に感情を取り戻し、失われた文化を再建するまで、私は彼らの傍らにいることを決意した
この星の生命の光を、私のパンで育んでいくのだ
■愛ちゃんの目覚めと、新たな生命の息吹
愛ちゃんは、この星の深く静かな場所で、チビ宇宙人たちと共に穏やかに眠り続けていた
彼女の眠りは、まるで繭の中で、未来への準備をしているかのようだった
私の焼くパンが、微かな光となって彼女を包み込み、成長の糧となっていることを、私は感じていた
パンから放たれる「光の粒子」は、愛ちゃんの体内に吸収され、彼女の生命力を高めているようだった
彼女の傍らには、いつもチビ宇宙人たちが寄り添い、まるで彼女を守る守護者のように、静かに見守っていた
彼らの間には、言葉ではない、深い絆のようなものが生まれているようだった
チビ宇宙人たちは、愛ちゃんの光に触れることで、彼ら自身も成長しているように見えた
彼らの体は、以前よりも鮮やかな光を放ち、その動きはより活発になっていた
彼らは、愛ちゃんの光を受け継ぎ、新たな世代の希望となっているのだ
彼女が目覚める日は、まだ遠いのかもしれない
しかし、いつかその日が来れば、彼女は、この星の、そして宇宙の希望となるだろうと、私は確信していた
彼女が目覚めた時、きっとこの宇宙で、新しい何かが始まるだろう
私は、その日のために、最高の「光のパン」を焼き続ける
■新たな使命、新たな人生
地球を離れて、もうどれくらいの時間が経っただろう
恋は、いつの間にか、私の人生の主軸から外れていた
「まさか、こんな宇宙の果てで、パンを焼くことになるなんてね」
と、私は時折、独りごちる
けれど、私は今、この宇宙で、私にしかできないことを見つけた
宇宙人たちはもはや、私にとって未知の存在ではなく、まるで家族のように温かい存在になっていた
彼らは私の焼くパンを心から喜び、私を大切にしてくれた
「勇気くんのためだけにパンを焼いていた頃の私とは、まるで別人だ」
あの人目的でパン屋になったら、恋愛どころじゃなくなった
でも、それは、私が私自身の「パン」を見つける、最高の旅だったのだ
そして、この旅は、まだ始まったばかりだ
私は、宇宙の光を宿したパンを焼き続ける、ただ一人の「星のパン職人」として、この広大な宇宙で生きていく
地球への未練がないわけではない
時折、勇気くんの笑顔や、美佳先輩の厳しい声、花丸おじさんの優しい眼差しを思い出す
しかし、この星の夜空に瞬く星々を見上げるとき、私の心は、新たな使命感と、深い充足感で満たされるのだった
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