第2話 気配
「ねぇ、私が見えてるんでしょ?」
今までは、周りを飛んでいただけなのに、なぜか今頃になって、妖精が話しかけてきた。
目と目が合っているから、見えているのは気づかれている。
周りに気づかれないよう、小さく頷く。
「やっぱりね。見えてるんじゃないかと、ずーっと思ってたのよ」
そう言うと彼女は、嬉しそうに私の周りを飛びまわる。
「私、“ローズ”。よろしくね」
自己紹介までしてくれた。
ローズに微笑みかけようとしたその時。
大学の友達、西村和歌子(にしむら わかこ)に、
「ちょっと、結衣、聞いてるの?」
肩を叩かれた。
ビクッと肩が跳ね、現実に意識が戻る。
「あ、ごめん。ちょっと考えごとを……」
「もー、さっきから上の空じゃん。講義ももう終わったから、帰ろうって、何回も言ってるのに」
和歌子は呆れたように言い、カバンを抱えて立ち上がる。
私も慌ててノートを閉じ、席を立った。
「何か、悩み事でもあるの? 最近、やたら考え事してるよね」
和歌子には、不思議なものが見えるってことは、話してない。
なぜなら、見えるというと、変な目で見られてしまうんじゃないかと。
小三のとき、見えたものをそのまま友達に話したら、怖がられて「嘘つき」と呼ばれた。
その時のことが、トラウマになって、不思議なものが見えるということを、誰にも言ってない。
そのことを知っているのは、唯一の身内である母だけ。
というか、母も見えるらしい。
背後に、ふわふわと浮かんでいる妖精。
ローズが、後ろからついてくる。
振り返り、目が合うと、彼女は嬉しそうに手を振る。
「……悩みごとっていうか、最近、誰かに見られてるような気がするんだよね。気のせいかもしれないけど」
和歌子の質問に答える。
「えっ、なにそれ! 怖いじゃん。ストーカーとかいるんじゃないの?」
和歌子が少し大袈裟に肩をすくめ、周囲をきょろきょろ見回す。
「ちょ、やめてよ。そんな真剣に警戒しないで」
本当にいたら、怖いじゃない。
「いやでもマジで気をつけなよ? 一人で帰らない方がいいって。ほら、最近変なニュースもあるし」
大人になるにつれて、小さい頃から見慣れた妖怪や幽霊よりも、理性を失った人間のほうが怖くなってきた。
和歌子の話で、急に怖くなってきた私は、和歌子と同じように、周囲を見渡した。
ローズと目が合っただけで、ほかには何もなかった。
私の思い過ごしかもしれない。
……そう、思いたい。
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