第30話足あとを追って
「……見てください、助手殿。ほれ、地面を」
「……うわ、本当に残ってる。足あと……」
アパートの敷地裏、砂利の混ざる舗装の隙間に、
確かに犬の足あとが続いていた。
「これはポチ殿のものに違いない。間違ってもわしの足あとではないぞ。わし、肉球じゃないし」
「わざわざ否定しなくていいです。誰もマヨイさんが犬とは思ってませんから」
2人は、そっと足あとをたどり始めた。
足あとはアパートの脇を抜け、
小さな川沿いの遊歩道へと続いていた。
「ふむ、これは“心の迷い”が足に現れた足あとじゃな……!」
「どこ見て言ってるの!? 犬の足あとに“心理”なんて刻まれません!」
川沿いにはベンチがあり、ところどころに人の姿もあった。
「ちょっと聞き込みしてみましょうか。ポチを見かけた人がいるかもしれないです」
ミナが近くの散歩中の老人に声をかけ、マヨイはといえば、
「む……あそこから見渡すのが良さそうじゃ!」
彼女は両手を目の前で丸くし、双眼鏡のようにして川の方をじっと見た。
「……ふむ、“ポチスコープ”じゃ」
「はい、出たー! しょうもないネーミングシリーズ! ポチ専用スコープって何ですか!?」
そのとき、ミナが戻ってきた。
「いました。川沿いを歩いてるポチを、何日か前に見たって人がいました。
ちょうど、川の反対側を通っていったみたいです」
「やはり……“川の彼岸”こそがポチ殿の目的地か……!」
「何か霊界的な方向に行ってない!? 普通に“向こう岸”って言って!」
ふと、川の反対岸に、茶色い小さな影が見えた。
「……いた!」
ミナが声をあげた。
ポチ。
ゆっくりと歩いて、向こう岸の草むらに入っていく。
「よし、追うぞ! 探偵、参る!!」
「ちょっと待って、橋使おう!? 飛び込まないでくださいね!?」
こうして迷探偵と助手は、
ようやくポチを目の前にとらえ、再び足あとを追いはじめる。
その先に、何があるのか。
ポチはなぜ、ここを目指したのか。
物語は、いよいよ核心へ。
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