第27話散歩仲間たちの証言
日が高く昇った昼下がり。
マヨイとミナは、依頼人・草野絵美の案内で近所の公園を訪れていた。
ここはポチがよく散歩していたお気に入りのコースであり、
周辺の飼い主たちが犬を連れて集まる、いわば“情報の溜まり場”でもあった。
「助手殿、ここが情報の巣じゃ。犬ネットワークすなわち、“ドッグ・インテリジェンス”!」
「その名称、今日作りましたね? 明らかに今朝思いついたやつですね?」
公園のベンチには、小型犬を連れた老婦人が座っていた。
ふたりが近づくと、彼女はすぐに声をかけてきた。
「あら、あなたたち、ポチちゃんを探してるのね?」
「ほうっ、もう話が出回っておるとは。さすがドッグ・インテリジェンス……!」
「違いますよ。ただのご近所ネットワークですよ。犬限定じゃないです」
ミナが丁寧に頭を下げながら尋ねる。
「最近、ポチの様子に変わったところはありませんでしたか?」
「そうねえ……ここ2、3日、なんだかソワソワしてたような気がするわ。
よく空をじーっと見ていて……まるで、何かを考えてるみたいだったのよ」
「む……空を、じゃと?」
マヨイの目が光る。
「つまり……飛ぶ気か……?」
「犬に飛行能力はありません!!」
ミナの鋭いツッコミが走る。
そのやり取りを聞いていた中学生の男の子が、やんちゃそうな柴犬を連れて近づいてきた。
「ポチさ、最近こっちの方に向かってよく吠えてたよ。
家の方じゃなくて、たぶん……川の方向」
「川……?」
マヨイはピクリと反応し、
次の瞬間、両手を顔に当てて双眼鏡の形を作り、キッと川の方向を見つめた。
「川か……水の流れは情報の流れ。
つまり、そこに何か“真実”が流れているのじゃ……!」
「語呂が良くても根拠がない!!」
それでもミナはすぐさま地図アプリを開いて、川沿いの地形をチェックする。
「川沿いには動物病院、ペットショップ、小さな公園、あと……あ、ここ。
最近建ったばかりのアパートがあります」
「むむ、これはつまり……新築アパートが怪しいのでは……?」
「え、それしか見てないじゃないですか!?」
そのとき──。
「ポチちゃん、昨日見ましたよ」
近くで立ち止まっていた女子高生が、不意に口を開いた。
「えっ、本当ですか!? どこで、何時頃ですか?」
「昨日の朝、7時くらいかな……学校に行く途中、あの新しいアパートの前で、
ポチちゃんがひとりで座ってたの。ずーっと玄関のドアを見てて……
なんか、誰かを待ってるみたいな顔してた」
マヨイは静かに腕を組み、ふっと目を閉じた。
「待っておったのじゃな……その扉の向こうに、会いたい者がいたのか……」
「……えっ、急に詩人?」
「いや、迷探偵じゃ!」
「それは間違ってないけど、正しくもない!!」
こうして──
ポチが最後にいた場所、そして“何かを待っていた”という新情報が明らかとなった。
事件は少しずつ、“ポチの意志”という見えない糸を手繰り寄せながら、
新たな展開へと進んでいく。
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