午前三時
R.J.マニング
午前三時
深夜、グラスゴー大聖堂の裏手の東に位置する共同墓地に笑い声が響いていた。共同墓地で二番目に高い丘の上に立ち並ぶ墓石群の中、丘の頂上のジョン・ノックスの記念碑から離れた丘の北東の端に位置する墓石より左に三つ墓石を横切り、南に進めば、その笑い声の主はいた。
男は名をアレリック・レッドラムといい、ミザリー・レッドラムと刻まれた墓石の前に足を組んで座って、左膝の先の地面に
ただでさえこの日は生暖かい空気ばかりが漂ってそよりとも風の吹かぬ新月の夜の闇に包まれた不気味な夏の日だったが、男は暗闇の恐怖を知らぬ様に何度も何度もよく響く笑い声を上げていた。しかし男はある瞬間にふと笑い声を止めた。そして、不思議そうに周りを見回した後、何やら気が変わったらしく、酒瓶を左手側の視界の端にある
だが、男は気が付けば転んで前のめりに雑草の
男は絶叫を上げ続け、身を
「放しやがれ!この死にぞこないが!棺の中に帰りやがれ!」
その頭はもう片方の手で角材から頭を
「痛い!痛い!手を止めてくれ!酷いじゃないか!あんたのせいで記憶喪失になってしまったじゃないか!」
「知るものか!お前の言う通り手を止めたぞ!さあさっさと放しやがれ!」
男が手を止めて同じ言葉を繰り返すと共にその黒い肌の頭は不思議そうに首を
「何で俺はあんたの足を掴んでいるのだろうなあ?だが掴んでおかないといけないことだけは分かっているんだよなあ。待った。ああ、思い出して来たぞ。おりゃ死者だった。主人が罪を犯したが為に一緒に処刑されたんだ。そして、地獄に落ちた。罪を犯した主人の奴隷だからって理由でだ。全く酷い話だよなぁ」
男はまるで話の通じぬその死者の態度に更に腹を立てて再び死者の頭を打ち据えて、またしても言葉を繰り返した。
「放せ!汚らしい黒手の浅ましい地獄の住人が!地獄の奥底にさっさと帰りやがれ!」
その男の攻撃をもう片方の腕で防ぎながら、死者は変わらず男の言葉を無視して待った、もう一つ思い出したぞと言って嬉しそうに言葉を続けた。
「あんたの奥さん浮気をしているな。あんた、彼女の家族を経済的に追い詰めて己と結婚するしかないように追い込んだんだな。今、彼女は元々の
男は思わず目の前の出来事も忘れて天を
「あの小娘が!金を返してやった恩も忘れやがって!」
男はこの言葉の後、怒りのあまりに死者の頭を打ち据える手も止めてこの!この!…と顔を真っ赤に言葉も継げずに何度も口を閉じたり開いたりして何とか罵声を吐こうとしたが、口から
「全部思い出したぞ。あんた、親族全員に色々と
体の何処にそれ程の息が残っていたのか、男は空気を切り裂く程の凄まじい絶叫を上げて一瞬で地面の奥底に引きずり込まれ、それと共に地面の裂け目は閉じて跡形もなく消え失せた。その場に唯一残ったのは、風の吹き始めた夜に一人さみしく油を切らして炎の消えた角灯だけだった。
午前三時 R.J.マニング @001-003567
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