アカシャ記:彼方の冥界について

雅郎=oLFlex=鳴隠

護衛依頼:『彼方の冥界』を探して

 あぁ、そこの君! 地底に眠る大都市、彼方の冥界『ノクト・ヴォイドウィル』に興味はないかね!?


 ……いや、失礼。不躾な態度を取ってしまってすまないね。

 私は光冠教ステイレン・コロナの研究者だ。


 みたところ、君はの大迷宮、ディープダンジョン『怖気の坑道シヴァリング・マイン』に挑む冒険者だろう?


 ……なに? 違う?

 では『ゾワゾワ・やなとこ』かね?


 そう? やっぱりそうかね。

 うーん、先人に敬意を払うのは結構だが……あの胡乱うろん掘人ホルトどもの使う、間抜けななんぞ、わざわざ大事にする必要も感じられんがね。


 まあよい。そんなことは、どうでも。

 一攫千金を狙うなら、私の依頼も聞いて行きたまえ。


 端的に、目的地は地の底! ディープダンジョンのだ!

 方法は問わず、私を無事にそこに連れて行く、ただそれだけでいい。跋扈ばっこする自動採掘機械どもも、その他の魔物や魔獣どもも、相手する必要は特にないぞ。


 ……なに? そんな危険な橋は渡れない?

 うーむ。そうだな。言うは易し、というやつか。


 いや、分かるぞ。私とて、馬鹿ではない。

 そもそも『怖気の坑道シヴァリング・マイン』の主要な稼ぎ方は、自動採掘機械からの略奪ではないからな。わざわざ危険を冒してまで深層へ潜らずとも、放っておいてもそこら中に放り捨ててられている、彼奴きゃつらのを集めるだけで、十分な財を築くことが出来る。特に面白みはないがね。


 しかし、君も冒険者として、未開の地に対して、浪漫のひとつくらいは感じるだろう?

 それなら、話だけでも聞いていきたまえよ。あるいは、興味の一つも出るやもしれんしな。



 『彼方の冥界ノクト・ヴォイドウィル』……地の底の彼方にあるとされる、謎の巨大都市。太古の昔、『怖気の坑道シヴァリング・マイン』に遺棄された、掘人ホルトの自動採掘機械によって掘り当てられた大空洞に、それはあるらしい。


 アカシャ様の記録には、それ以上に読解出来る記述はないがね。今のところは、観測者がくだんの機械の魔獣どもだけで、ろくに意思が読み解けんようでな……。

 ゆえに、過去の偉大な先人たちよろしく、私も手ずからの地を観測しようと思っておるのだよ。それだけで、の地の記録は大きく発展するからな!



 ああ、自動機械製作の伝説の巨匠、ホルティック氏さえ御存命であればなあ!

 金なら幾らでも払うので、専用の護衛機でも作ってもらうところなんだが。クソ間抜けな名付け以外は、珍しく尊敬に足る掘人ホルトだというのに、惜しいものをなくしたものだよ。


 もしかしたら、君も見たことがあるかもしれんがね。

 自動採掘機械3号機、それまでの自動採掘機械のクソ間抜けなフォルムからは予想も出来ない、あのスタイリッシュに洗練された設計デザイン! 確かな戦闘能力! 類稀たぐいまれなる状況判断能力による自律機動!


 ――そして、相変わらず馬鹿な正式名称!

 なんだったかね。確か……『ほるてぃっく・おーとまた』だったかな。発音するだけで舌が腐りそうだよ、まったく。


 ……ま、大昔に死んだ巨匠を惜しんでも仕様しようがない。

 当時の技術を復興出来る見込みもなし、護衛は君ら冒険者に頼らざるを得ない、というわけだ。ひとりの天才に依存する技術は、これだからいかんね。


 そんなわけだ。もし、この話に興味がありそうな奴がいれば、話を持ちかけてみてくれたまえよ。

 命知らずの開拓者でも、業突張ごうつくばりの金の亡者でも、なんでも構わん。とにかく私を地の底まで連れて行ってくれさえするのなら、金は幾らでも払う。望むなら、光冠教ステイレン・コロナの歴史書に、偉人としてその名を永劫にのこすことも出来るだろう。


 名誉ある仕事だ。気が変わったら、いつでも連絡をくれたまえ。


 ではな。光冠コロナの導きがあらんことを。

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