第3話 泣き虫赤血球の決意
「……こっす……無理っす……もう……。」
血管街の奥、真っ暗な狭い血管のトンネルの前で、
泣き虫赤血球は小さな背中を丸めていた。
詰まった血栓のせいで血の流れは止まりかけている。
ナノダイブで到達した燈の前に、彼はしゃがみ込んだまま動けない。
【赤血球】:「怖いっす……ここに近づくと、みんな……潰されるっす……。」
燈はゆっくりしゃがんで、赤血球の頭に手を置いた。
「……お前が運んでるのは何だ。」
赤血球は目を潤ませて、懐から小さな光を取り出した。
それは――祈り細胞のかけらだった。
【赤血球】:「……ここを抜ければ……命が……向こうに届くっす……。」
燈の scalpel は現実の手術室で少年の心臓の奥に触れている。
だが、AI秩序の演算にはこの血栓は誤差の範囲だと表示されている。
【AI秩序】:「誤差ゼロ演算では処理不要です。進行を推奨。」
助手が scalp el を差し出す。
だが燈は手を伸ばさない。
代わりに、赤血球の目を見て言った。
「お前が行くんだ。」
【赤血球】:「え……?」
「俺の scalpel は誤差を抱える。
でもお前の祈りは――誰にも切れない。」
赤血球は震える手で光を胸に抱いた。
【赤血球】:「でも、怖いっす……潰されるの、嫌っす……!」
【祈り細胞】(遠くで囁く声):
「……お願い……生きたい……届けて……。」
赤血球の涙が血管に溶けた。
震える足が一歩だけ前に出る。
「俺が scalpel で道を開ける。
お前は命を運べ。」
赤血球の目に小さな火が灯る。
【赤血球】:「……運ぶっす……!
俺の仕事は……血を運ぶっす……!
命を運ぶっす……!」
燈の scalp el が血栓を切り開く。
現実のオペ室で、AI秩序の警告音が鳴り響く。
【AI秩序】:「演算違反! 誤差範囲超過!」
助手が慌てて血流を止めようとするが、燈は振り返らない。
血管街の奥、赤血球は小さな体で血栓の隙間をすり抜けた。
小さな光を胸に抱いて、
誰も届かない命の奥へ――
【赤血球】:「届けるっす! 俺が……運ぶっす!」
祈り細胞の光が、血管の向こうに届いた瞬間、
心拍が微かに跳ね上がった。
オペ室に警告音がこだまする中、燈の scalpel は
誰も知らない命の奥に微笑んだ。
「命を治すんじゃない。命を――渡す。」
泣き虫だった赤血球の目に、もう涙はなかった。
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