17 羽
ばさりと何かが広がる音がした。
風で膨らむビニールシートのような、それに乗って飛んでいくビニール袋のような…音。
ヘッドホンをつけ、道を歩いていたというのに障害物などないというように耳に届いた音に溜め息を吐いた。
「ねえ、無視しないでよ」
後ろから聞こえる軽やかな声に気づかないふりをしながら、行く当てのない道を右に左に適当に曲がっていく。
「ねえってば!」
ばさりとまた何かが広がる音がした。
決して、触れる距離に近づくことのない声の主を見ないようにただただ前だけを向いて歩いていく。
ヘッドホンから流れる音楽に集中し、他の音が聞こえないようにと鼻歌も混ぜていく。
しかし、それでもばさりと広がる音と呼びかける声だけは防げない。
「あーもう、どうしてこっち見ないのかなー」
不満気な声と同時にばさりばさりと広がる音が早くなり、少し風が吹き出した。
「こっち見てくれないと困るのに…仕方ないな」
その声にいよいよ諦めてくれるかと安堵の息を吐いた時、頭上から影を落とされた。
ばさり
目の前に左右に乳白色のような光り輝く鳥の羽が数枚落ちてきた。
光の粒を纏い、煌めくそれを視認した時、手遅れなことに気がついた。
「大人しくこっち見てくれたらよかったのに」
すっと目の前に降りてくると、巨大な羽を広げたまま、それは微笑んだ。
「あーあ。綺麗なままが良かったのに」
残念そうに笑うそれの向こう側から、ふらつき暴走する自動車が走ってきていた。
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