16 キャンパス

真っ白でざらざらなそれを触った。

無垢でなにものにでも染まってしまえるのが羨ましいと、そっと筆を手に取った。


…昔は筆を手に取っただけでわくわくした。

なにものにでも染まることができる四角い窓は、筆を鉛筆を手をいつでも無条件で受け入れる準備をしてくれている。

いや、準備すらしていないかもしれない。


全てを受け入れ、染まることを望む四角い窓と向かい合うこと月日幾層。

手に持っていた筆が震え、それが全身に伝わると何ともいえない感情が押し寄せてきた。

四角い窓に思い切り筆を叩きつけ、鉛筆という鉛筆を投げつけ、押し倒した。

なにものにも染まれる筈なのに、今の四角い窓はなにものにも染まらずただ倒れて破けて、天井を見つめていた。


違う。

こんな事をしたかったのではない。

荒れた部屋から飛び出し、気が狂いそうな雑音に頭を抱え、叫びたい衝動を堪えて走り続けた。


幸せな色を紡ぎたかった。

楽しげな歌を彩りたかった。

喜ぶ景色を写したかった。


それがいつしか、期待と周りの声に邪魔をされ見えなくなった。

なにものにも染まり、世界を創る四角い窓がいつしか憎くて仕方がなかった。

なにものにも染まれる筈なのに、いつしか染まることを拒絶した四角い窓が羨ましかった。


走り続け、辿り着いた先には何もない景色が広がっていた。

何もない。

ただ広がる空が、音が、気配が、四角い窓のようだった。

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