14 思考
例えば世界が創り物だとして、それは一体、誰が創った物なのだろう。
とても不毛で永遠に答えのでないものなのだが、ふと疑問に思ってしまえば考えずにはいられないのだから不思議だ。
まるで他人事のように思い、笑みを浮かべると目の前の人物を見つめた。
人物なのだろうか。
見た目と仕草は人に似ているから人物と称しているが、実際は違うのかもしれない。
上空には青空が広がり、無機質な純白な床が広がるこの空間に床とお揃いの色の椅子にぽつんと座っている人物。
地平線のように青と白しか存在しない世界で、その人物はただただ目の前を見つめていた。
白い
青い
それだけの場所
その世界で椅子に座るその人物は、何を考えているのだろうか。
何も考えていないようにも熟考しているようにも見える。
「どうしてここに?」
ふいに聞こえた声に心臓がどきりと跳ね上がった。
どこから発せられたものだろうか。
少なくとも目の前に座っている人物ではないだろう。
口が動いていなかったのだから間違いない。
ばくばくと早鐘を打つ心臓を落ち着けるために深く息を吸い込み、吐き出す。
肺が空っぽになったところで、再び、息を吸い込みそのまま返事をした。
「気づいたらここに。ここは一体どこなんだ?」
質問に質問を返すのはいただけないらしいが、ここはいつもの世界ではなさそうなので適用外だろうと勝手に解釈する。
「そう問われると困ってしまう。何故なら、この場所は知っているようで知らないのだから」
答えのない答え。
期待はしていなかったが、自然と落胆してしまう。
「さて、それではどうすればいいのだろうね」
考え事をしていれば、いつの間にか見知らぬ世界にいて、見知らぬ人物と見つめ合っているこの状況。
未だ、微動だにしない椅子に座っている人物に話しかけようにも言葉が見つからず、出入口はあるのかと見渡してみるもそれらしきものも見当たらない。
そもそもどうしてここにいるのだろうか。
「考えてばかりだ」
ふうっと大きく息を吐き、背もたれに思い切りもたれかかる。
ふかりとした心地のいい感触が背中を優しく弾ませてから沈み込ませた。
「ここはどこで、世界は誰が創りだしたものなんだろう」
雲一つない青空を見つめ、見当たらない太陽の光を照明代わりに。
空を見上げる形になっている顔を正面へと向けた。
「ここはどこだ?」
「それを知っているものなら知っています」
再び聞こえた声に、返事をすることもなく続きを促してみる。
「それは座っています」
返事をしなくても気にすることはないらしい。
目の前に座っている人物が答えを知っているのだろうか。
となれば
「あなたがこの世界を創ったのですか?」
目の前に座っている人にそう質問してみるも、言葉を発せないのか理解していないのか、返答はない。
「ここはどこですか?」
再び、質問をしてみるが作り物のように動かないその人物は、正面を見つめたまま固まっている。
その姿はまるで彫刻のようだと思った時、あることに気が付いた。
その人物の服装。
よくよく見れば覚えがある。
そう
あれは
確か
その時、青空に少し朱が足された。
時刻の変化でもあったのだろうか。
ゆっくりと光が変化していく中、気が付けば目の前に座っていた人物は姿を消していた。
「なんだ。動けるなら最初から動けばいいじゃないか」
挨拶くらいしてから行ってもいいだろうに。
少し不満げに呟き、水色と朱色に変化した空を見上げた。
夕方にしては明るい、夕方になろうとしている空。
その光が心地よく、しかし、受け入れてはいけないような気がしながら更に背もたれに体を沈めていく。
自然と正面を向く形になり、空白になった向かいの椅子をただ見つめ、思考する。
この世界が創りものだとしたら、それは一体、だれが創ったものだろうね
誰も答えはしない。
答えなど求めていない。
ここはどこなんだろうね
誰も答えられない。
答えようがない。
気づけば向かいに見知らぬ人が座っていた。
人物なのだろうか。
見た目と仕草が人物に似ているから人と称しているが、そもそも人なのだろうか。
きょろきょろと辺りを見回し、忙しない。
(もう少し落ち着けばいいのに)
言葉にするでもなく、そう思い、ただ目の前の人が何をするのかを静かに見つめる。
この世界は
ここは
思考し続けるその場所の光…朱が強まり、オレンジと紫が追加された。
そのとき
目の前の人と目が合った気がした。
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