8 友人

確かに昨日まで、今、この瞬間まで彼女は存在していた。

笑顔で前向きで未来を見つめるその姿が眩しかったのを覚えている・・・と、友人Aは語った。

落ち込み、絶望し、泣くことすらも忘れていたときも彼女は手を差し出し、友人Aがその手を掴むまでひたすらに待ち続けていた。

「別にそんなつもりはないんだけどな」

何年ぶりかの会話でそう笑い、頭を搔く姿にそういうところだよと笑い返した。

彼女には随分ひどいことをしたと呟けば、そうだっけ?と首を傾げる。

その姿に更に罪悪感が増すのだが、それを言ってしまうのは八つ当たり以外の何ものでもないことを理解している為、何も言わずにコーヒーと共に飲み込んだ。


自分勝手な感情で彼女を裏切った。

自分勝手な嫉妬で彼女にひどいことをした。

自分勝手な絶望で彼女を傷つけようとした。


謝っても許されることではない。

それは友人Aが自身を許したいが為の自己満足で、またもそれに彼女を利用しようとしているだけだと理解している。

友人Aだと名乗っているが、友人と名乗ることすらもおこがましく許されないことだということも理解している。

長年、付き合いのある知人くらいが彼女の認識なのかもしれない。


その彼女が姿を消したとき、友人Aも姿を消していた。

正直、どちらが先に姿を消していたのかは不明であり、いつ姿を消したのかも不明だった。

しかし、友人Aのスマートフォンの中に彼女へのメッセージが残されていた。

それは既読にはなっていなかったが、友人Aにしては珍しく明るく前向きでまるで彼女のようだったと誰かが言っていた。


後日、彼女は発見された。

どうやら旅行に行っていたらしく、それを伝え忘れたが為の騒動だったらしい。

友人Aも一緒だったのかと誰かが尋ねた。

しかし、彼女は知らないと答え首を傾げて日常へと戻っていった。


しかし、彼女は知っていた。


友人Aは友人Aのままだったことを。

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