7 キーボード
カタカタカタカタカタカタカタカタ
一心不乱に画面を見つめて、一切こっちを見ない君。
何かに追い詰められているように、唇を噛み締めて、目を顰めて呼吸まで忘れていそうな姿にいつも申し訳なくなってしまう。
「あーもう!」
そう言って叩きつけられる重みが更に君の苛立ちを加速させるのだけど、きっと気付いていないだろう。
昔はもっと楽しそうだった。
目を輝かせて口元に喜びを乗せて、誰かと会話しながら夢中で旅をしていた君。
龍に乗って空を飛んで、仲間と釣りをして村を作って。
それが待ち遠しくてそわそわしていたら、君もランドセルを投げ捨ててすぐにその世界に飛び込んで。
その世界を一緒に旅立てるのが楽しかった。
君が奏でる音が重みが心地よくて、垂直でよく見えない世界を一緒に旅ができるのが大好きだった。
いつしか君は夢のような冒険をしなくなったね。
魔法は現実のような弾が飛び出す飛び道具に。
夢いっぱいのローブは重々しい迷彩柄の服に。
輝かせていた目は険しく細められて。
喜びを乗せていた口元は、舌打ちをして暴言を吐くようになって。
それでもいいと思ったんだ。
リズミカルな楽しい重みが荒々しく痛めつけるような重みになっても。
一緒に遊んでくれるならそれでよかったんだ。
今でも覚えてるよ。
初めて会った時、君はまだ僕を上手く運べなかったね。
初めてローマ字が打てた時嬉しそうだったね。
初めて絵が描けた時、すごく自慢してたね。
全部全部覚えてるよ。
インターホンが鳴った。
目の下に隈を作って、持ってきたそれは高性能な僕の後輩で。
僕だけじゃなくて、一緒に遊んできた垂直な世界を映し出す同期やカスタマイズされて世界を保存してきた先輩の後輩達。
今度は光るんだ。
すごいななんて感心して、入れ替わりに段ボールに雑に入れられて。
閉じられる隙間から見えたのは感情のない表情で。
楽しかったよ。
君はきっと言わないだろうから、代わりに伝えるよ。
今まで遊んでくれてありがとう。
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