●1-5 ポスト
木製のポストは本物だった。
女子生徒に人気の少年は命に別状はないものの、激しい運動が出来ない身体になっていた。
しかし、本人の性格からか落ち込む様子もなく代わりに勉強を頑張るよと前向きな笑顔で心配するクラスメイトに話していたのを、少年はちらりと遠目に見ていた。
既に女子生徒に人気の少年に関しての興味は薄れている。
ノートにポストに投函する願い事を書き綴り、どの順番に叶えてもらうかしか頭になかった。
明日は嫌いな算数のテストがある。
《明日の算数のテストで満点がとれますように》
無難なお願いを書き、少年は無意識に深呼吸をしていた。
興味は薄れていても、気に入らないと思っていても女子生徒に人気の少年に怪我を負わせてしまったという心の奥底の罪悪感が拭えないらしい。
少年にはまだ理解できない感情が、頭を、手を、心を無難な願い事へと導いたのかもしれない。
学校帰りに願い事を投函し、家に帰ればゲームをしてから気の乗らない宿題に手をつける。
そのまま眠りにつき、翌朝、いつも通りに学校の門をくぐり、算数のテストを手に取れば不思議なことに少年の頭の中に答えが浮かんできた。
少年の口角が自然とあがる。
木製のポストが本物であることが更に証明された。
新作のゲームが欲しい。
国語の宿題が終わっていて欲しい。
給食のおかずを変えて欲しい。
願い事は全て叶えられ、少年の世界は潤っていた。
欲しいものは必ず手に入り、宿題も授業も学校の人間関係も思いのまま。
まるで世界の頂点に君臨しているようだと少年は思った。
願い事は更に増えていく。
一度、欲望を叶えてしまえば更なる欲望が生まれるものだと学校の先生が言っていたなと少年は思った。
「それでもこの世界は全て僕のものだ」
そう呟く少年の後ろで、口を動かしながらポストは静かに立っていた。
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