●1-4 ポスト

次の日。


学校に向かう途中、木製のポストは確かにそこに立っていた。

まるで初めから存在していたかのように、違和感なく存在しているそれに近づき、少年はこっそりとノートをちぎった願い事を投函した。

《今日の体育で一番になれますように》

走りが得意な少年は最近一番になれず、代わりに女子生徒に人気のクラスメイトの少年がその名声を総取りしていた。

それが面白くなく、又、唯一の得意分野を横取りされた気持ちになっていた少年の小さな願い事だった。

「どうせ偶然だろうし」

半信半疑の願い事。

少年が学校に向かうために歩き出したとき、ポストの口がわずかに動いたことに誰も気づかなかった。


「よーい!」

ピーと勢いよく笛が鳴り、少年は走り出した。

競争相手の一人に女子生徒に人気の少年がいる。

負けるわけにはいかないと必死に走るも距離は広がるばかり。

(やっぱり嘘だったじゃん)

歯を食いしばり、懸命に走っていた、そのときだった。

前を走っていた女子生徒に人気の少年が突然転んだ。

何やら叫んでいるが、少年は気にする余裕もなくその隣を走り抜け、ゴールテープを切る。

「やった!」

満面の笑みで今にも小躍りしたい気分を抑え、後ろを振り向くと先生とクラスメイトが女子生徒に人気の少年の元に集まっていた。

「大丈夫か!?」

顔色を変え、先生がどこかに電話をかけながら女子生徒に人気の少年に声をかけている。

声をかけられている本人は話すことも難しいのか、顔を歪ませ、足を抱えながら転げ回っている。

少年は近づき、何事かと見た瞬間、固まった。

女子生徒に人気の少年の右足ふくらはぎが刃物で切られたかのようにぱっくりと口を開けていた。

血が止まることなく流れ続け、痛みで泣き叫ぶ女子生徒に人気の少年を先生が抱きかかえ、少し離れて心配そうに見ていたクラスメイト達は先生の指示により教室に戻ることになった。

「ほら、早く戻りなさい」

救急車を呼んだらしい先生の言葉にぼんやりと従いながら、少年は今朝のポストのことを思い出していた。

確かに少年の願いは叶った。

しかし、傷つけたいわけではなかった・・・筈だ。

「あれ、本物なんだ」

そう呟き、少年は少し口角をあげた。

「そっか・・・本物なんだ」

誰にも聞こえないような声で少年は呟いた。

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